大昔ならまだしも。

現代社会で、時代錯誤な奴隷制度が残っているとは考えにくい。

考えられるとしたら、シェルドニア王国くらいだが…。

マキナス曰く、サナキはシェルドニアの出身ではないと本人が言っていたらしいし。

なら…サナキの生まれ故郷は、一体何処だ?

サナキは、何に怯えている?

「本人が言うには、生まれたのは『ずっと遠くの国』だそうだけど…」

「『ずっと遠くの国』?」

「うん。具体的な国名は言わずに、それだけ…」

ずっと遠くの…。

…やはり、間違いない。

サナキは、俺と同じ…。

「…こう言っちゃ悪いけど、サナキの記憶って、もしかして妄想なんじゃないかな」

と、マキナス。

…さすが、鋭いなお前は。

「だって、他に説明がつかないでしょ?作り話にしては現実味がなさ過ぎる。奴隷商人に追われてるってのも…」

「まぁ…。信じられないよな…」

もし本当に、サナキが『ずっと遠く』の国に生まれた奴隷で、炭鉱送りから逃げてルティス帝国に迷い込んできたのだとして。

まずそんな遠くの国から、逃亡奴隷がどうやって、遥々ルティス帝国まで辿り着いたのだ?

国境検問所は?どうやってクリアしたのだ?

一昔前の箱庭帝国ならともかく、ルティス帝国の国境は、こっそり抜けられるような簡単なものではないぞ。

まぁ、それは何とかクリアしてルティス帝国に入り込んだのだと仮定して。

ここまで来たのに、何故まだ奴隷商人の追跡に怯える必要がある?

サナキが何処の国に生まれたのかは知らないが、少なくともルティス帝国の周辺諸国で、奴隷制のある国はない。

つまり、サナキが生まれたのは、もっともっと遠くの…簡単には移動出来ないような、それこそ地球の裏側のように遠い場所、ってことになる。

そんなところから逃げて、ルティス帝国まで来たのだから、もう奴隷商人に怯える必要なんてないだろう。

いくらなんでも、こんなところまで追ってこられるとは思えない。

そこまでしてサナキを探すくらいなら、いっそサナキは諦めて、別の奴隷を確保した方が、余程安く済むだろう。

それが商売人ってもんだ。

言い方は悪いが、サナキは、苦労して探し出さなければならないほど価値のある奴隷だったとは思えない。

価値のある奴隷だったなら、炭鉱送りになんてされなかっただろうし…。

俺も裏社会で暮らし続けてもう長いが、他国の奴隷が逃げ出して、ルティス帝国に入り込んできたなんて話…聞いたことがない。

サナキの話は、あまりにも突拍子がなさ過ぎる。

正直、とても信じられない。

かといって、サナキが嘘をついてるとも思えないのだ。

作り話にしては、現実味が薄い。

もしサナキがスパイで、嘘の過去を話しているのだとしたら…もっと上手な嘘をつくだろう。

行き倒れて非合法組織に身をやつす理由なんて、ごくありきたりなもので充分だ。

家族がいなくて、頼れる宛も金もなくて仕方なく。これだけで良い。

こんな理由で『オプスキュリテ』に入ったメンバーは、ごまんといる。

何故、わざわざ信じられないような嘘をつく?

それに、もし嘘をついているのだとしたら…マキナスが、すぐに気づくはずだ。

職業柄、目の前の人間が嘘をついているか、本当のことを言っているかは…大体一目で見分けがつく。

マキナスの人を見る目は、俺も認めるところだ。

そのマキナスが疑っていないのだから、サナキは全て、真実を言っている。そう考えていた。

その上で、サナキの記憶は妄想の産物ではないかと言っているのだ。