─────…サナキが『オプスキュリテ』にやって来て、しばらくたったが。




「どうだ?新人の様子は」

「ん?サナキ?…別に良いんじゃない?」

と、マキナス。

別に良いんじゃない、か…。

なら…やはり、俺を狙って追ってきたとか、スパイ目的とか…そんな訳ではないのか。

「頭は悪くなさそうなんだけど、文字が読めないからなー。もうちょっと勉強させないと…」

「そうか」

文字が読めない…か。

その報告は、以前マキナスから受けたが。

それは有り得ないのだ。

あいつが文字を読めないなんて、そんなことは有り得ない。

まさか演技しているのではないかと思ったが、そんな様子もないし…。

「地下が好きだって言って、ず~っと引きこもってるよ。あれは前世モグラだよ。間違いない」

「…」

そう。スパイなのだとしたら…いくらなんでも大人し過ぎるんだよな。

あんな消極的なスパイはいないだろう。

だからやっぱり、サナキは単なる…。

「まぁ無理もないのかもしれないけどね。外に出たら、自分を追ってきてる奴らに見つかる、って怯えてるみたいだし」

…何?

俺は、マキナスのその言葉に耳を疑った。

「追ってきてる?…誰が?」

「?奴隷商人…。サナキ、元々は奴隷だったんだって。炭鉱送りから逃げてきたって」

「誰がそんなこと言ってたんだ?」

「本人に決まってるじゃない」

…サナキが?

奴隷商人から逃げてる?

「それにしてもおかしいよね。サナキ、何処の国に生まれたんだろう。今時奴隷制度を敷いてる国なんて、ほとんどないだろうに…」

…言われてみれば。

「強いて言うならシェルドニアかな?でもシェルドニアの出身ではないってはっきり言ってたし」

「…そもそも、シェルドニア王国の奴隷制はもう廃止されたんじゃなかったか?」

「だよね」

第一、仮にシェルドニア王国から逃げてきたとして…逃亡奴隷の身でどうやって大海を渡り、ルティス帝国まで辿り着くのだ。

「箱庭帝国かなとも思ったけど、先に起きた革命で、国民は全員解放されたって話だし…」

箱庭帝国の現代表は、正義感のある人物だと聞いている。

そんな人物が自国に奴隷制を敷くとも考えられないし。

「他に奴隷制度がある国って…何処かにあったかなぁ」

「さぁ…思い付かないな。でも、本人は奴隷だったって言ったのか?」

「うん。奴隷商人に追われてるって。見つかったら拷問されて、炭鉱送りにされるって…」

「…」

「…」

俺は、マキナスと顔を見合わせた。