「成程…。だから君、行き倒れてたんだね。奴隷商人の追跡から逃げて…」

「…あぁ」

今思えば。

マキナスが拾ってくれなかったら、俺、奴隷商人に捕まる前にのたれ死んでいたかもな。

それはそれで…奴隷としてではなく、人間として死ねるのだから、悪くなかったかもしれない。

「そっかぁ。なんか…君も色々大変だったんだね」

「…他人事みたいに言うなよ」

『オプスキュリテ』にいるメンバーで、大変じゃなかった奴なんているのか?

皆何かしら事情があるから、ここにいるのだ。

非合法組織ってのは、大概がそういうものだ。

光の当たる、明るい場所で生きられない者の行き着く果て…。

それが、ここだ。

「それにしても、奴隷制度が現代社会にまだ残っているとは…。もしかして君、シェルドニア王国出身なの?」

「…?」

「違う?現代で奴隷制が残っているのは、シェルドニアくらいかと思ったんだけど…」

「いや…シェルドニアではないけど…」

シェルドニア王国というところには、奴隷制度があるのか?

俺の故郷と同じだな。

「君の故郷って、何処なの?」

「…何処って…言われても…」

それは…。

故郷の景色や風景は思い出せる。

でも、国の名前や地理は、思い出せなかった。

「…遠く。多分、凄く遠く」

「…ふぅん…遠くか…」

「うん。遠くだよ」

「…」

マキナスは、何か聞きたそうな顔をしていたが…。それ以上は、何も聞いてこなかった。