炭鉱送りにされると知ってから、俺は殺される、と思った。

確かに俺は奴隷だ。家畜だ。売り買いされる商品だ。

商品に意思はない。

でも、殺されたくはなかった。

家畜でも、牛や豚でも…生存本能はある。

死にたくない。殺されたくない…その一心で、俺は逃げ出した。

新しい主人に引き渡される前に、こっそり脱走したのだ。

奴隷を人間ではなく、商品としてしか見ていない奴隷商人は、まさか商品が勝手に、意思を持って逃げ出すとは思っていなかったようで。

思いの外、簡単に逃げ出すことは出来たのだが…。

だが、見つからずにいられる保証は、何処にもない。

彼らは商品が逃げることを許さない。

脱走を目論む奴隷は、珍しくはあるが、でもゼロではない。

そして脱走すれば、商人達は見つかるまで脱走犯を探す。

探し出して、身の毛もよだつような酷い罰を与えて、それから改めて新しい主人のもとに送りつける。

炭鉱送りが決まってしまった俺は、奴隷商人に捕まってしまったら、その時点で死んだも同じだ。

何なら、炭鉱に送られる前に、脱走の罰で殺されるかもしれない。

いずれにしても、奴隷商人に見つかってしまったら、俺の命は終わりなのだ。

だから、俺はここが好きだ。

この地下が好きなのだ。

だってここにいれば…今も俺を探しているであろう奴隷商人に、見つかる心配はないから。

奴らもまさか、俺が地下に身を潜めているとは思うまい。

ここにいる限り、俺は安全だ。

地下に隠れて、潜んでいれば…俺は生き延びることが出来る。

家畜ではなく、人間として。