「驚いた?あんなことしてるの」

貧民街からの帰り道、マキナスは俺にそう尋ねた。

「まぁ、驚きはしたな」

「じゃあ…気持ち悪いと思った?」

「それはない」

断じてそれはない。

「なら…偽善だと思った?」

「…」

「それは黙るんだね」

「…ごめん」

「良いよ。そう思う人がいるのは仕方ない。自分でも思ってるよ」

人によっては、偽善と捉えられてもおかしくはない。

魚の釣り方を知らない人々に、魚だけを渡しても仕方がない。

でも彼らには、魚の釣り方を教えることは出来ないのだ。

それが出来るなら、とっくにやってる…。

「確かに偽善かもしれないけど…。一時的でも、その偽善に救われる人がいるんだ。その思いでやってるんだよ」

「…そうか…」

「『オプスキュリテ』は、マフィアに武器を売って金儲けする傍ら、そこで儲けた金で、見返りも何もない貧民街への施しもしてるんだ。おかしいでしょ?」

…。

おかしいかおかしくないかと言われたら…確かにおかしいかもしれない。

ボランティア団体なのか、非合法組織なのか…。

これが義賊、って奴なんだろうか。

「何で、こんなことを…?」

「『オプスキュリテ』には、元々こういう貧民街出身の子が多いんだよ。ジュリスはね、行く宛のない孤児を見つけたら『オプスキュリテ』に連れてきて、衣食を与えてたんだ」

あぁ、そういう…。

「実際、僕も昔は貧民街に住む孤児だった。生きる為に色々悪さしてたけど、そこをジュリスに拾われて…今ここにいる」

「そうだったのか…」

「折角拾ってもらった命だからね。せめてジュリスと、組織の為に…あとはまぁ、僕みたいな人間がこれから先生まれなくて済むように、貧民街に色々施したりしてるんだ」

…成程。

それが…マキナスが『オプスキュリテ』にいる理由なのか。

「…で、それを何で俺に話す?」

『オプスキュリテ』では、互いの過去はタブーなんじゃなかったのか。

「別に僕は隠してる訳じゃないし…。むしろ下手に隠して、下衆の勘繰りされたくなかったからね」

「そう…」

勘繰るつもりはなかったんだけど。

「…マキナスも色々大変だったんだな」

「そりゃ誰でもでしょ。多分君も」

…そうかもな。

でなきゃ、こんなところにはいないもんな。