「…多重人格者?」

「そう、まぁ簡単に言えば、そんな感じかな」

羽久の身体の中に、羽久は一人ではない。

羽久の中には、たくさんの羽久がいる。

皆それぞれ性格や名前や性別も違っていて、同じ一つの身体を共有しているのだ。

それが、羽久の秘密。

何それ気持ち悪い、と言われてもおかしくなかったが…。クュルナちゃんは、驚きながらも気味悪がる様子はなかった。

「クュルナちゃんも見たでしょう。私が捕まってるとき、助けに来た羽久…。あれは、羽久じゃなかった」

「…そういえば…」

思い出したようだ。

「あのときは気になりませんでしたけど…。今思えば、確かに…今の羽久さんとは違ってましたね」

「そうでしょう?」

羽久・グラスフィアは、実はあの身体を共有する人格の一つでしかないのだ。

「…えっと…。それでは、普段いつも表に出てきている羽久さん…私が知ってる羽久さんが、オリジナル…ってことですか?」

確かに、一日のうちで羽久でいる時間が一番長いね。

しかし。

「私はあの子の中にいる全ての人格が、それぞれオリジナルだと思ってるよ。どの人格も本物だし、偽物の人格なんて一つもない。どれも、本物の羽久だ」

どの子もそれぞれ自分の考えがあるし、それぞれ意思があって、皆好みも違っていて。

あの身体の中にいるのは、どれもが一人の人間だ。

どの子が出てきても、私は平等に接しているつもりだ。

まぁ…一部の例外はあるのだが。

「そう、ですか…」

「他に聞きたいことは?」

「…羽久さんの中には、いくつ人格があるんですか?」

…気になるよなぁ。それ。

実は私も気になってる。

「あの子の中に、何人いるのかは…。正直、私にもよく分からないんだ」

だからこそ、あの子が今何処にいるのかも、検討がつかないのだ。