深夜。

「…」

私は、羽久が帰ってくるのを未だに待っていたが。

やはり、一向に戻ってこなかった。

…羽久が何も言わずに、私の前から消えるはずがない。

自分が突然いなくなったら、私がどんなに心配するか…想像出来ない羽久ではないのだから。

なら、誰かに連れ去られた?

それも有り得ない。

羽久を連れ去ることが出来る者がいるのなら、紹介して欲しいくらいだ。

羽久ほどの魔導師を、そう簡単に誘拐出来るものではない。

それが『禁忌の黒魔導書』の仕業だとしたら、考えられなくもないが…。

…それよりも、可能性が高いのは。

「…やっぱり、替わっちゃったのかな」

現状、これが最も有力な理由だろう。

すると。

「学院長!」

「あ、クュルナちゃん…」

深夜だというのに、クュルナちゃんは血相を変えて学院長室に飛び込んできた。

その顔を見て、クュルナちゃんも事情を知ったんだな、と思った。

「羽久さんがいなくなったって…本当なんですか!?」

…やっぱり、その件か。

「…まぁ落ち着いて、クュルナちゃん。深夜だから。まず座ってお茶でも飲もう」

「そ、そんな悠長な…」

「良いから、良いから。焦ったところで羽久は帰ってこないよ」

確かクュルナちゃんには、まだ説明してなかったもんね。

お茶飲みながら、ゆっくり話をしよう。

羽久の秘密について。

「…分かりました」

クュルナちゃんは渋々頷いた。

よしよし。宜しい。

では、お茶を淹れてくるとしよう。

深夜だし、甘さは控えめで。