驚いて顔を上げると、そこには困り顔の吐月君がいた。

…。

「吐月君…。…おはよう…」

「お、おはようって…。午後ですよ?今…」

「あ、うん…」

「…」

「…」

何て言ったら良いのか分からない様子の吐月君。

まさか私が呑気に午睡を楽しんでいるとは、思っていたかったのだろう。

「違うんだよ吐月君。私は決してサボっていた訳ではなくて…。ちょっとその…。午後の授業の…英気を養う為にね?」

「はい…」

「だからね?その…吐月君…」

「…はい」

「…皆には黙っててくれる?」

クッキーあげるから。

何ならチョコレートもあげるから。

午後に学院長室を訪ねたら、学院長が涎垂らしながら熟睡してた、なんて生徒の間で広まったら。

来年度の受験生が激減することは間違いない。

それはやだ。

「大丈夫です…。黙っておきますから…はい…」

「吐月君…ありがとう」

君優しいね。

「…ん?」

そのとき、私はようやく気がついた。

今、午後の授業の時間じゃん。

いや、本体の私は寝てたけど、これで分身の私はちゃんと授業してるよ?

従って、吐月君も現在、授業を受けていなければならないはずなのだが…。

何で、ここにいるんだろう?

「吐月君…授業は?」

吐月君のことだから、サボりです、って訳でもないだろうし。

いや、お前も寝てたじゃんと言われたらそれまでだけど。

「あ、はい…。それなんですけど…。あの、羽久さん…グラスフィア先生は?」

「へ?」

「うちのクラス、これから時魔法の授業なんですけど…。いつまで待ってもグラスフィア先生が来ないので、呼びに行こうかと…」

「…」

いない?

羽久が?

きょろきょろと学院長室内を見渡す。

が、羽久の姿はない。

羽久に限って、授業があるの忘れてました、ってことはないはずなんだけど。

時魔法の授業は毎週この時間に行われるんだし…。今日だけ忘れました、とは考えられない。

シュニィちゃんに呼ばれて、聖魔騎士団の方に行った、とか?

考えられなくはないが…。