それにしても、聖魔騎士団で団長を務めるほどの実力を持つアトラスさんが、何で余るのか、と言ったら。

それは別にアトラスさんの人柄とか実力の問題ではなく。

単に、アトラスさんが魔法を使えないからに他ならない。

皆が魔法を使う試験なのに、アトラスさんは魔法が使えないから、戦力としてカウントされていなかったのである。

基本的に魔導師は、生まれつき選ばれた人間しかなれないせいか、剣士や弓兵を見下す傾向がある。

「自分達は選ばれた魔導師である」という意識が強いのだ。

国内最高峰の魔導師養成校たる、イーニシュフェルト魔導学院の生徒なんだから、尚更そうだ。

だから、剣士のアトラスさんと一緒に組むなんて、皆嫌がったのだ。

魔法の使えないアトラスさんと組んでも、実質一人で勝負するようなもの。

何で自らハンデを背負わなければならないのかと、皆アトラスさんを無視してペアを組み。

結果余り物となって、余り物同士で私と組む羽目になったと。

見たところ人柄は悪くないのに、魔法が使えないというだけでこれなのだから、気の毒だなぁとは思ったが。

アトラスさんは全く気にしていないようだった。

それどころか。

ペアが決まった翌日の放課後、アトラスさんは私の教室を訪ねてきた。

何をしに来たのかと思ったら、彼の目的は私だった。

「あの…廊下であなたを呼んでる人がいるけど」

クラスメイトが、私に声をかけてきた。

「え…?」

私を呼ぶ人がいるなんて、イーニシュフェルトに来てからは初めてだった。

一体何事かと思って、慌てて廊下に出ると。

そこにいたのはアトラスさんだった。

「シュニィ!良かった、まだ帰ってなかったな」

「え、アトラスさん…?どうしたんですか?」

わざわざ私のもとに来るなんて。

もしかして、「やっぱり新しいペアが決まったからごめん」と言われるのだろうか。

それならそれでも別に…と、思ったら。

「これから一緒に、模擬戦の練習をしよう」

「…は?」

私は思わず、ぽかんとしてしまった。

…模擬戦?練習?

「…?何か予定でもあるのか?」

「え?いえ…ありませんけど…」

そう答えると、アトラスさんはパッと顔を明るくして、私に手を差し出した。

「なら行こう。練習して、今のうちに息を合わせておかないと」

「は、はい…」

試験の為に練習するのは、何も珍しいことではない。

むしろこの時期は、訓練場は模擬戦の練習をする生徒で大賑わいだ。

今までノー練で試験に挑んでいた私の方がおかしいくらいなのだ。

だから、練習をすることは珍しくもなんともないが…。

まさか、私に声をかけに来るなんて思わなかったから…自分には関係ないとたかを括っていた。

「…分かりました。行きましょう」

「あぁ。頑張ろう」

このときは、熱心な人だな、と思ったくらいだった。

あと、ちょっと面倒だな、とも思った。

どうせ試験が終わったらそれでお別れなのだから、何でこんなに真面目に頑張ろうとするのか…私には、さっぱり分からなかった。

まぁ、交換留学生だから。

少しでも実績を積んでおきたいと思ったのだろう。