やって来たのは、二人の青年。

一人は良い。見るからに好青年って感じだ。

成程、この人は確かにマフィアには見えない。

普通に良い人っぽい。

問題は、もう一人だ。

好青年にコアラのようにくっついて、ぷんぷんとフェロモンを振り撒いていた。

部屋の中のフェロモン指数が急上昇。

普通フェロモンと言ったら、ナイスバディの若い女性を思い浮かべると思うが。

その人は男性なのに、そこらの女より、遥かにフェロモンに長けていた。

全身真っ黒な、しかもふりふりの衣装(何て表現すれば良いのか分からない)を着て、爪には艶やかなマニキュアを塗り。

ばっちりと化粧を決めて、ヒールの高いブーツを履いて、頭には黒い蝶の髪飾り、左手首にも黒い蝶を模したフィンガーブレスレットをつけ。

仕上げとばかりに、オリエンタルな香水の香りを漂わせ。

胸に、青い薔薇のブローチをつけていた。

真似しようと思っても、なかなか真似出来ないファッションだ。

この人だからこそ、こんなエロいカラスみたいな格好が許されるのだ。

他の人が同じ格好をしても、滑稽に見えるだけだろう。

…予想以上に凄い人が来た。

見た目マフィアには見えないが、でも明らかにヤバい人だということは分かる。

物凄くよく分かる。

「ルルシ~。結婚しましょうよ~結婚」

その人は、相方の青年にコアラみたいにくっついて、あざとい上目遣いで言った。

結婚って。

「しねぇよ。何回言ったら分かるんだ」

「分かりました。じゃあ今流行りの…妊活しましょ?」

「にっ…!…また変なこと言い出して…。誰がするか」

そもそも二人共男同士だから、生物学上妊活は無理だと思うのだが。

それを指摘して良いかも分からないので、黙っておく。

「大体俺は、仕事をしに来たんだ。何でお前がついてくるんだ?」

「ほら、ルルシーあるところに俺あり、って言うじゃないですか。俺はいつでもルルシーの傍にいますよ!24時間…あなたを見てますよ…?」

「…ホラーかよ…」

監視カメラみたいな人だな。

「…あぁ、もう良い。とにかくお前は黙っとけ。俺は仕事をしに来たんだからな。『オプスキュリテ』との取引を…」

「むむっ、あなたイケメンですね。良かったら俺のハーレムの男性会員になりません?入るは易し、出るは死んでも無理と評判ですよ、俺のハーレム」

フェロモン魔神が、ジュリスの手を取ってそう言った。

入るは易し、出るは死んでも無理って。

地獄じゃん。

俺はびっくりしたが、ジュリスは特に動じることもなく。

「いえ…遠慮します」

とだけ言った。

「え~。つまんないなぁ。あ、じゃあ隣のあなた。あなたも良い顔してますね。俺のハーレムにはいっ…」

「こらルレイア!勧誘すんな!」

ルルシーという青年が、有り難くも止めてくれようとしたが。

ルレイアと呼ばれたフェロモン魔神は、俺の顔をしばしじっと見つめ。

「…りませんかと言いたいところですが、あなたは駄目ですね。世界が違ってそうなので」

「…?」

世界?

「ルレイア?」

ルルシーという人も、突然引き下がったフェロモン魔神に首を傾げていたが。

「…やっぱり俺にはルルシーですね!ルルシーが一番!食べちゃいたい!」

「うわっ…。馬鹿、くっつくな!」

「やです~!」

「っ…。いい加減にせんか!」

べたべたとくっつく二人を、俺はドン引きで眺めていたが。

ジュリスはさすがの貫禄を見せ、全く動じていなかった。

…これを見ても真顔でいられるとは。尊敬するよ。