二時間ほど、俺は暗い天井を見上げていた。

身体が鉛のように重くて、思うように動けなかった。

「それは栄養失調と脱水症状だよ」

と、俺をここに連れてきた彼が言った。

名前は、マキナスと言うらしい。

マキナス・リファンリル。

「ここは…何処なんだ?」

俺は改めてそう尋ねた。

四方八方を、硬い土壁で囲んだ空間。

まるで暗い地下のようだ。

「『オプスキュリテ』の本拠地だよ。ここは」

…つまり、マキナスが所属しているこの組織のアジト、ってことか。

「…マキナス」

「何?」

「『オプスキュリテ』っていうのは、結局…」

何なんだ、と聞こうとしたとき。

「…マキナス?いるか?」

向こうから、ほっそりとした若い青年が現れた。

…誰?

「あぁ、ジュリス…。戻ったの」

と、マキナス。

そうか、この人が件のジュリス…。『オプスキュリテ』のリーダーとかいう…。

「聞いたぞ。道端で子供を拾ってきたそうじゃないか、マキナス」

「子供って言うほど小さくはないけどね。これだよ」

マキナスは、まるで物のように俺を指差した。

「行く宛がないらしいよ。良かったらうちで飼ってあげたら?」

俺は犬か。それとも猫か。

「ん?あぁ。行く場所がないならここに…」

「…?」

「…」

ジュリスは、真っ直ぐに俺の目を見て、少し驚いたような顔をした。

そのまま、しばしじっと俺を見つめた。

俺は当然、マキナスも怪訝に思ったらしく。

「…何?知り合いなの?」

と、声をかけた。

「…いや…初対面だが」

「それにしては情熱的に見つめ合ってるから」

「別に、情熱的に見つめた覚えはねぇよ」

俺も情熱的に見つめられた覚えはない。

「それより、お前…何処から来た?名前は?」

「…名前は、サナキだ」

「サナキ…。で?何処から来た?」

「…それは…」

…正直、言いたくなかった。

自分が何処から来たのかは分かっている。

でも、それを口にするのはあまりにも惨めで…。

俺が口ごもるのを見て、ジュリスはひらひらと手を振った。

「あぁ、言いたくないなら良いよ。うちはそういう奴らの集まりだからな。過去の話は、お互いタブーなんだ。悪かったな、嫌なこと聞いて」

「…いや…」

「とにかく、行く宛がないならうちに入れよ。歓迎するぜ、サナキ」

ジュリスは、俺に手を差し出した。

…俺を、受け入れてくれるつもりらしい。

…良かった。

「…ありがとう」

「宜しくな」

ジュリスは、俺がおずおずと差し出した手を、力強く握り返した。

何処かで、同じような手の温もりを感じたことがある気がした。