「…ん…?」

目が覚めると、暗い天井が目に入った。

長い長い眠りから、覚めたような気がした。

「あ、気がついた?」

誰かが、俺の顔を覗き込んだ。

「…誰?」

聞き慣れたはずの、自分の声なのに。

生まれて初めて聞いたような、そんな錯覚に襲われた。

「それはこっちの台詞だよ。君こそ誰?何であんなところに倒れてたの」

「…あんなところ?」

「覚えてないの?君、道端に倒れてたんだよ。何で行き倒れてたの?」

行き倒れて…。

何となくだが…覚えている。俺は…。

…逃げてきたんだ。

「…」

あまりにも惨めな話だから、見ず知らずの相手には言いたくなかった。

言えなかった。

「…ふぅん。まぁ、何となく察した。要するに、帰る場所がないんだね?」

「それは…」

…ない。

そんなものがあったら、道端で倒れたりしてない。

「なら、ここにいれば良いんじゃない?ここは、君と同じように帰る場所がない連中の集まりだから」

「…ここに…?」

「まぁ、ジュリスの判断次第だけどね」

「…ジュリス?」

と、いうのは…人名か?

「地下組織『オプスキュリテ』の頭領。君をうちに入れるかはジュリス次第だけど、まぁ駄目とは言わないでしょ」

「…」

地下組織?『オプスキュリテ』?

頭の中がぐちゃぐちゃで、上手く考えがまとまらなかった。

全身が、鉛のように重い。

身体を動かすというのは、もっと簡単なことだと思っていたのに。こんなに難しかったのか?

「ジュリスはもうすぐ帰ってくるはずだから、そのとき交渉してみるんだね」

「…」

「…で、君名前は?」

…名前?

名前…俺の名前って…何だったっけ?

そうだ。

「…サナキ」

「サナキ?それが名前?」

「あぁ…」

間違いない。それが俺の名前だ。

使ったこともないし、呼ばれたこともないけれど…。