その日、シルナはご機嫌斜めだった。

「あぁぁぁ~っ!酷い!」

「ん?」

シルナは、学院長室の入り口でわなわなと震えていた。

…何?痙攣?

「何が?自分の顔面?」

「違うよ!それ!お菓子!」

お菓子?

「あぁ、これ?」

俺がさっき摘まんでいた、シルナの秘蔵のお菓子ボックスに入っていた、小分けのマドレーヌ。

「最後の一個だったのに!キュレム君達がシャネオン土産にくれたお菓子!授業終わったら、こっそり食べようと思って大事に取っておいたのに!」

「あぁ、そうだったんだ…。美味しかったよ」

「美味しかったなら良かったけど…。でも私の楽しみだったのにぃぃ」

良い歳したおっさんが、お菓子で泣くな。

「別に良いじゃん、おやつならいくらでも隠してるだろ?」

「隠し場所変える度に羽久が見つけて持ってっちゃうから、私全然食べられないんだよ!この間だって、お客さんにもらったチョコレート、羽久が食べちゃったし!」

あ?そうだっけ?

別にお菓子が特段好きという訳ではないのだが…。何となくシルナがほんわかした顔で菓子食ってるの、見るに耐えないからさ。

「あーはいはい、ごめんごめん」

「酷いよ!それシャネオン土産なんだよ?もう買えないんだよ?手に入らないんだよ!?」

「ふーん」

「って言いながらまた食べてるし!それ私がこの間シュニィちゃんからもらったくっき、」

ぱりっ、と。

シルナが止める前に、口に放り込んだら。

シルナは、ぶるぶると震え出した。

痙攣再び。

「もーっ!馬鹿!羽久悪い子!そんな子に育てた覚えはありません!」

「俺も、シルナにそんな子に育ててもらった覚えはないよ」

「もう知らないからね。羽久なんて知らないんだから!絶交だからね!絶交!出ていってもらうから!」

小学生みたいなキレ方してんな。

「はいはい。なら出ていきますよ。さよーなら」

俺はひらひらと手を振って、学院長室を出た。

絶交と言われても、本気にはしていなかった。

シルナが怒るのは、初めてではないし。

あと二時間もしたら、機嫌も直ることだろう。















…と、思って校舎を出た、瞬間。