…危ねぇ。

ルイーシュが庇ってくれなかったら、今頃痛いじゃ済まないことになってたかも。

「…外したか」

グリードの後ろに、まるで女神のように神々しく降臨したのは。

禍々しい魔力を持つ、『禁忌の黒魔導書』の化身。

「…誰だ?お前」

「…我が名はファントム」

ファントムさん。それがこの禁書の名前。

「そうかい。中二病な名前をどうも…」

グリードを脱ひきこもりさせることに必死で、忘れていたけども。

俺達の目的は、こいつの社会復帰ではなく。

失踪した五人の行方を探すことだったんだ。忘れてたよ。

こいつが脱ひきこもりすればそれで万事解決と思ってたが、そんなはずはなかった。

「なぁ、ファントムさんよ…。俺達、この辺で失踪した五人の男を探してるんだけど…。何か覚えはないもんかね」

「…」

「なぁグリード。お前でも良いぞ。何か知ってることがあるなら教えて欲しいんだけど」

グリードをぎろりと睨み付けると、彼はひっ、と声を出した。

成程。何か知ってる顔だな、それは。

と言うか、お前だろう。

「言え。言わなきゃ舌を引きちぎるぞ」

「引きちぎったら言えないじゃないですか、キュレムさん」

あ、そうだった。

「じゃあ頭をねじ切るぞ。言え!」

「頭ねじ切っても言えないと思いますけど…」

あ、そうだった。

「じゃあもう何でも良いから言えっての!失踪した五人は何処だ!?お前は、あの五人に何をしたんだ!」

このびびりチキンヒキニート自宅警備員に、人を殺す度胸などない。

間違いなく、五人は生きている。

何処かに隠しているに違いない。

「そ、それは…」

口ごもるグリードに、もう一発鉄拳を食らわせてやろうとしたら。

その前に、ファントムが答えた。

「その五人なら、私の作った空間に閉じ込めてあるよ」

「あ…?」

閉じ込めてある、だと?

「その男は、かつて自分を苦しめた男達を監禁し、生かさず殺さず苦しめて、その様子を眺めて笑っていたんだ」

「…」

…へぇ。

グリードはファントムの言葉を否定せず、ただ黙って項垂れていた。

随分と…悪趣味なことをするじゃないか。

「こいつ一人でそんなことが出来るはずがない。お前が力を貸したんだろう?」

「勿論だ。それが私とこの男の、契約だった」

成程ね。

『禁忌の黒魔導書』たるファントムの力を使えば、不可能ではない。

むしろ、容易いことのはず。

…いや、待て。

今こいつ、何て言った?

…契約…だった?

何で、過去形…。

「…だから、これで契約は完遂された」

ファントムは、グリードの首を両手で掴んだ。