端から見れば、全くなんて間抜けな話だろう、と笑い話に出来るけど。

当事者の俺にとっては、笑い話どころではない。

あれだけ必死に努力して、試験に備えたのに。

当日、風邪を引いて試験を受けられないとは。

当然、俺は試験に落ちた。

そもそも試験、受けてないんだから落ちるのは当たり前だ。

イーニシュフェルト魔導学院に入れなかった俺は、地元の魔導師養成学校に入るしかなかったのだが…。

この件で、俺を持ち上げていた全ての人間が、俺に失望した。

両親も。他の家族も。

周囲の人間も皆。

皆俺がイーニシュフェルト魔導学院に合格するものと思っていたから、俺に期待していたのに。

その期待に俺が応えられないと知るや、皆が俺に興味をなくした。

両親からははっきりと、「お前には失望した」と言われた。

「お前に期待なんてするんじゃなかった」と。

「もうお前がどうなろうと知ったことではないから、好きにしろ」とも。

風邪を引くなんて、俺の実力云々の話ではないのだが。

俺はそれまで、なまじちやほやされていたものだから。

そんな風に、いきなり手のひら返しされて…内心、酷く驚いた。

嘘でしょう?皆あれほど俺に期待してくれていたのに。

皆、俺を大事にしてくれていたのに。

たった一度失敗しただけで、しかもその失敗は俺のせいじゃなくて、ただ体調を崩したってだけなのに。

何で、こんな虫けらみたいに扱われるの?

今まで一度もこんな風に蔑ろにされたことはなかったから、いきなり手のひらを返されて、俺は困惑した。

どうすれば良いのか分からなかった。

キュレムさんや、俺の弟にしてみれば、そのくらいのこと、と鼻で笑うのだろうけど。

俺は蔑ろにされることに全く慣れていなかったから、誰からも期待されなくなるのは辛かった。

悲しかった。何で一度の失敗で、ここまで嫌われなければならないのかと。

そして、俺は知ったのだ。

期待していたのは俺ではなく、ただ俺の才能だけだったのだということに。

イーニシュフェルトにも入れない、肝心なときに失敗する愚か者は、誰からも期待なんてされないのだ。

誰の期待も、愛情も信頼も、たった一日でなくした俺は。

自分がどれほど、薄っぺらいものにすがっていたのかを知った。

どれだけ努力しようが、必死に歯を食い縛って、辛い思いをして研鑽を積もうが。

一度失敗すれば、全部が終わりなのだ。

俺が積み重ねてきたものなんて、ほんのちょっと机を揺らしたら、全て崩れてしまうほどに脆く、弱いものだったのだ。

俺なんて、所詮はその程度の人間だったのだ…。

今まで思い上がってきたぶん、それを思い知らされたのはショックだった。

周りに誰もいなくなってしまった俺は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

最早、俺という人間に価値はない。

誰も期待してないし、誰も俺を大事になんてしてくれない。

一人ぼっちだ。

それ以来、周囲の期待は、全て弟に注がれることになった。

今まで全く見向きもされなかった弟は、いきなり周囲から期待されるようになって、大層喜んだ。

今度は自分の番だ、と思ったのだろう。

その通り。確かに、弟の番だ。

今までずっと俺が独占してきたんだから、今度は弟が大事にされるべきだ。

しかし。

今まで当然のように自分の周りにあったものが、突然なくなるのと。

今までなくて当然だったものを、いきなり手に入れるのとでは、全く意味が異なる。

生まれて初めて、俺は挫折を味わった。

そして、二度と立ち直ることは出来なかった。