イーニシュフェルト魔導学院の教師は、実は二名しかいないのだ。

一人は、学院長シルナ・エインリー。

そしてもう一人は、羽久・グラスフィア先生だが。

グラスフィア先生の方は、時魔法の授業だけを担当している。

他の授業は、全て学院長が行っている。

とは言っても、イーニシュフェルト魔導学院には三桁を越える生徒がいる訳で。

全ての授業を、学院長一人だけが担当することは出来ない。

ならば、どうするか。

学院長は魔法を使って、自分の分身を無数に作り出しているのだ。

そして、その分身達に授業をさせている。

それも、一体一体姿や性格が違う。

男性の姿だったり女性の姿だったり。優しかったり厳しかったり。

分身なのに、個体差がある訳だ。

わざと個体差をつけているのだろうけど。

常に学院長室にいるシルナ・エインリーだけが、オリジナル。

残りの分身は、皆学院長が作った、偽者の学院長。

素人の目から見れば、まず気づかれないだろう。

でも、ちょっと魔導理論を齧った人間なら、すぐに気づく。

あ、これ分身じゃん…って。

学院長の分身が直々に授業してくれるとは、さすがイーニシュフェルト魔導学院、と感心したものだが…。

「…それが何なんですか。誰でも気づくでしょう、そんなの…」

「いやー…。気づいてないよ?大半は」

「…は?」

何言ってんの。あなた。

「この学院には、教師が二人しかいない。それは経費を少しでも削減して、学費を安くしてあげたいからなんだけど…」

あ、そんな理由だったの?

「イーニシュフェルト魔導学院の『教師』が私と羽久だけなんだってこと、初見で気づく生徒は、ほんの一握り…。学年に一人もいない。十年に一人、いれば良い方なんだよ」

「…」

「それなのに、君は気づいてる。それどころか、気づいてることに気づいてない。君にとっては当たり前のことだから」

「…マジで?皆気づいてないの?」

気づいていながら黙っているんだとばかり。

わざわざ「学院長あれ、分身だよね」とは言ったことはなかった。

だって、誰も当たり前のことを確認したりはしないだろう?

空指差して、「太陽が昇ってますね」なんていちいち言う奴がいるか?それと同じだ。

皆気づいてるものと思ってた。

そういえば以前、クラスメイトが「うちの先生って優しい人多いよねー」なんて話していたのを聞いた。

優しい先生が多いって…。全部同じ学院長じゃん、と思ったものだが…。

あれはもしかして、こういうことなのか。

「ね、言ったろう?君は原石なんだよ。ただし自分にその自覚が全くない。それどころか無能だと思ってる。自信がないせいで、自分の才能をどうやって使ったら良いのか分からないんだよ」

「…」

「だから、その眠っている才能を開花させる。本体の私がね」

…なんてことだ。

こんな超展開が…。

「…ちなみに俺も初見で気づいてますよ?十年に一人の天才が、同じ学年に二人も…。あと二十年は暗黒期ですね、イーニシュフェルト魔導学院は」

「…それを言わないで…」

え、マジでルイーシュもなの?

ってか、学院長に向かってそういうことを平気で言うんじゃないよ。