幼い頃から、優秀な兄がコンプレックスだった。

兄は本当に優秀な人間だった。頭が良くて、スポーツも出来て、魔導適性もあって…。それなのに性格も良くて、友達も多かった。

文句の付け所のない人だった。

そんなものだから、初めて俺に会う人は、皆俺に期待した。

「あの」兄の弟なのだから、こちらもさぞや素晴らしい才能を持っているに違いない。

そう思っていたのだろうが。

俺は、兄貴とは正反対の人間だった。

俺に期待していた人は、俺がとんでもない無能だと知って、激しく落胆し、そして見下した。

何だ、弟はポンコツなのか、と。

ポンコツで悪かったな。

そんなこと、自分が一番よく分かってるんだよ。

俺のあまりのポンコツぶりに、両親でさえも俺に失望した。

こいつは兄貴と比べて無能だから、もう期待するのやめよう、って。

それどころかめちゃくちゃ馬鹿にしてきた。

事あるごとに、「お前は駄目な奴だ」とか、「出来損ない」だとか言ってきた。

余計なお世話だっての。

兄貴のことは、散々褒め称える癖にさ。

自他共に認める、我が家のエリート。それが兄貴。

自他共に認める、我が家のポンコツ。それが俺。

どちらに未来があるかは、明白だった。

誰もが兄貴に期待していた。兄貴もまた、自分は将来優秀な魔導師になるのだと思っていた。

皆がそう思っていた。

俺も兄貴も魔導適性があったから、地元のちっこい魔導師養成学校に通っていた。

兄貴は当然、そこの最優秀生徒だった。

それどころか、我が校の歴代生徒の中で最も優秀だとさえ言われていた。

ド田舎だったあの学校では、希望の星みたいに見られていた。

両親からは当然、学校の教員達からもめちゃくちゃ期待されていた。

皆が憧れの目で兄貴を見た。

対して俺には、皆が蔑みの目で見た。

お前は兄貴に比べて駄目な奴だな、と。

兄貴に全部才能吸われたんだろ、とも。

兄貴は兄貴。俺は俺だろう、と何度言ったことか。

でも、俺が何を言っても、それは才能のない無能の言い訳にしか聞こえなかった。

成績表が返ってくる度、両親は兄貴を褒め称え、対して俺を馬鹿にした。

兄貴はこんなに優秀なのに、何でアンタはこんなに馬鹿なのかしら、と。

兄貴の爪の垢を煎じて飲んだらどうだ?とも。

うちの兄弟の愛情が、兄貴に偏っているのは誰の目から見ても明らかだった。

優秀な兄貴にばかりご褒美と称して物を買い与え。

誕生日にプレゼントをもらうのも、そもそも誕生日を覚えてもらってるのも兄貴だけ。

祖父母も同様で、鼻高々に優秀な兄貴の自慢をするのに、俺に対してはいない者扱い。

俺が不満を訴えれば、お前も努力すれば良いじゃんとか、プレゼントに関しては兄貴に貸してもらえば良いじゃん、と言われる始末。

何だよ。貸してもらえって。

兄貴から貸してもらえるプレゼントに、喜ぶ人間がいるのか?