「あぁ…。あなたが元担任先生ですか…」

「そうですけど…」

もうここに来るまでに疲れ果てていた俺達は、最早目的を忘れかけてきた。

いや忘れるな。あの四人の話をしようとしてんだよ。

元担任先生は、あちこち転勤してきた先生というだけに、もうかなりのお歳であった。

ベテラン先生、って感じだな。

あまり優しそうには見えない。気の強そうなおばちゃん先生だ。

「えっと…。教師って大変なんですね。何年かおきに転勤させられて…」

まず出てきたのは、そんな言葉だった。

あちこちたらい回しにされたのが、俺もだいぶ堪えているらしい。

「そうですか…?教師なら普通ですよ」

「…」

あっけらかんとして言われても。

まぁイーニシュフェルトのようなのは特殊だよな。

「それで、今日は一体…」

「あ、はい…。今、ここシャネオンで失踪事件が起きているのをご存知で?」

「失踪事件…。ちらっと耳にしたような…」

この事件は、禁書が関わっている可能性があるので、一般にはあまり報道されていない。

知らないのも無理はない。

「失踪したのは、28歳の男性四人。Jさん、Kさん、Lさん、Mさん。この名前に聞き覚えは?」

「J…?K…。さぁ、聞いたことがあるような、ないような…」

「十三年ほど前に、あなたが担任していたクラスにいた生徒のはずです」

「…あぁ…。成程、そういえばそんな生徒がいましたね」

「…」

俺も、ルイーシュも無言だった。

…こんなもんなのかな。担任の先生にとって、教え子って。

まぁ、こんなもんなのかもしれない。何度も言うが、イーニシュフェルト魔導学院がおかしいのだ。

シルナ学院長は、特別だからな。

「覚えてますか?」

「そうですねぇ…。何となく…」

なんとも心許ない。

全然覚えてないな、実は。

と、思ったら。

「L君については覚えてますよ。彼、確か…三年生の受験シーズンが始まるってときに、いきなり他の学校に転校していったんです。親の転勤だとかで」

「…へぇ…」

Lさんだけ出身校が違っていたのは、そのせいか。

「いきなりのことで、手続きが大変だったんですよ。普通中三にもなって転校なんてします?全く…迷惑な話ですよ」

「あぁ…はい、そうですね…」

知らんがな。

とにかく、あの名簿に載ってたLさんの名前は、本当に失踪したLさんなんだな。

「それで、この四人について…他に何か覚えてることはありますか」

「他に…?そうですねぇ…。私も教師生活長いですからね。全ての生徒を覚えてる訳じゃありませんし…」

「…じゃあ、この四人は、仲が良かったですか?」

「さぁ…。この歳の子供はねぇ。気まぐれでくっついたり別れたりするから…。まぁ、仲は良かったんじゃないですか?」

この煮え切らない答え。

ルイーシュじゃなくても、逃げ帰りたくなる。

「他に覚えていることは?」

「…さぁ…。私も大勢生徒を送り出してますからね。はっきりしたことは…」

要するに、よく覚えてないのね。

まぁ、そういうもんか。

生徒にとって担任教師はたった一人しかいない存在だが、担任にとって生徒は、大勢のうちの一人でしかないもんな。

先生ってこんなもんなのかと思うと、ちょっと悲しい気もした。