地方の小さな魔導師養成校で、本を友達にする憐れなアルデン人の少女であった私が、何故聖魔騎士団の副団長をしているのかと言うと。

それは、シルナ学院長のお陰だ。

彼はある日突然、私が在籍する学校に、視察にやって来た。

聞くところによると、彼は各地の魔導師養成校を回り、才能のある魔導師の卵を見つけては、イーニシュフェルト魔導学院に勧誘しているとか。

その一環で、彼は私のもとにやって来た。

王都セレーナから来た、偉い学校の偉い先生ということで。

いつもは横柄な教官達が、妙に緊張した面持ちをしていたことを、今でも覚えている。

教官達は、クラスの中で優秀な生徒達を呼んで、シルナ学院長の前で魔法を使わせて見せた。

まるで、品評会だ。

優秀な生徒達が、学院長の前で必死にアピールする様を…私は、後ろでぼんやりと眺める、大勢の生徒達の一人だった。

私は、優秀な生徒ではなかった。

というのも、あの頃の私は、何もかもに手を抜いていた。

試験もわざと間違えて提出したし、魔法の試験はいつも手を抜いて、本気を出さないようにして、いつも中間くらいの成績をキープいた。

これは、私なりの処世術だった。

アルデン人の私が、ルーデュニア人であるクラスメイトより優れた成績だったら、良いことは起こらない。

アルデン人の癖に生意気だと、殴られたり、蹴られたりするだけだ。

孤児院で、嫌というほど経験させられていた。

だから、私はわざと手を抜いていた。

故に、誰も私の中に眠る才能に気づいていなかった。

私自身も。

ただ一人、シルナ学院長を除いて。





「…もう終わりですか?」

一通り、選りすぐりの生徒達が魔法を使うところを見た後で。

シルナ学院長は、教官達にそう尋ねた。

「え、あ…はい…」

どうやらうちの生徒達は、イーニシュフェルト魔導学院の学院長のお眼鏡には適わなかったらしい。

そう思ったらしく、教官はがっくりと肩を落としたが。

学院長が言いたいのは、そういうことではなかった。

「後ろの、他の生徒は?」

「え?でも…彼らはそれほど優秀な生徒では…」

「見てみないと分からないじゃないですか。ほら…そこの彼女とか。ちょっとやってみてくれないかな」

学院長は、あろうことか、私に向かって手招きした。

私はあまりにびっくりして、言葉をなくしてしまった。

すると、教官が私の代わりに学院長を止めた。

「そんな。彼女は大した才能はありません。それに、アルデン人だし…」

「アルデン人…?あぁ、言われてみれば、確かに」

そもそも、私がアルデン人であることにも気づいていなかったらしい。

「でも、人種なんて関係ありませんよ。ちょっと、見せてください」

「は、はぁ…。分かりました」

教官は複雑そうな表情で頷き、私に向かって顎をしゃくって、やれ、と指示した。

驚きながらも、私は渋々杖を持って前に出た。

そのときも、当然、本気を出すつもりなんてなかった。

「…rhundet」

私の杖から、小さな静電気のような電流が迸った。

きっと学院長は、がっかりしたことだろう。

折角王都を離れて、こんな田舎まで遙々やって来たのに。

見せられたのは、こんなつまらない魔法しか使えない、薄汚いアルデン人の小娘。

がっくりと肩を落として、「もう良いよ」と言われることだろう。

そう思って、私はちらり、と学院長を見た。

すると。

学院長の口から飛び出してきたのは、私が全く予想しない言葉だった。