「彼女」は、私には手を出さなかった。

ギョロギョロとした目で、私を見つめるばかりだった。

何も、彼女の意志が残っているからではない。

私が、この異形の化け物を作り出した術者だから。

だから、手を出したくても出せないだけ。

私から命を吸い取りたくても、出来ないだけなのだ。

「…あなたは、あの子じゃない…」

私は、震えながら杖を手に取った。

このまま放っておけば、この化け物は里を出て、もっと多くの人々の命を奪い続けるだろう。

ただただ、欲望のままに。

彼女にそんなことを…させる訳にはいかなかった。

「私はただ…あなたを…生き返らせたかっただけなのに…」

その為に、私は魔法を使った。

皆の期待に応えたかった。

またあなたと一緒に生きたかった。

それだけだったのに。

今度は、私があなたを殺さなきゃならない。





私は杖を振って、持てる魔力の全てを注ぎ込んで、化け物を殺した。

ただ力を吸い取って肥え太っただけ。知能も何もない異形の化け物は、なす術なく朽ち果てた。

急激に萎びた化け物は、虚ろな目で最後まで私を見つめていた。

「…あのまま…死なせて、欲しかったのに」





最後に彼女が、そう呟くのを聞いた気がした。