「よしよし…」

「…」

二十音は、私に抱きついたまま眠っていた。

これで落ち着いたかな。

ちょっと強引な…荒療治ではあったけど。

「な、何だったんだ…?」

置いてきぼりの警官。

私の助けがあと一秒でも遅れたら、今頃あの世にいたであろうことに、気づいていないんだろうな。

平和だ。

ともかく、こうなってしまったからには仕方ない。

「…もう、終わりにしよう」

「な、何を…」

「何を、か…。そうだね、まずは…ずっと気になってた君の正体から、明らかにしてみようか」

「!?」

私は一瞬で、警官の一人に肉薄した。

ずっと私を手荒く尋問していた担当官の男だ。

驚いて身を退こうとしたが、もう遅い。

私は、彼の顔を掴んで、無理矢理引きちぎった。

よくよく見ないと気づかなかった。

彼が、「魔法で作った偽物の顔」を仮面代わりにして、自分の素顔を隠していることに。

「…!」

案の定、引き剥がした仮面の下には、担当官の素顔が隠れていた。

そして。

「…女の子…」

腰まで届く長い髪。

仮面の下は、女の子の顔が隠されていた。

成程…。性別まで偽っていたのか。

「君…名前は?何故私に冤罪を…」

「…黙りなさい」

彼改め彼女は、憎しみのこもった目で私を睨んだ。

そんな風に睨まれても…私は彼女に会ったこともないはずなんだけどな。

まぁ、私を憎む人間は世の中に少なくないと思うから、その一人なのかもしれない。

「忌々しい魔導師が…!私は魔導師を、この世から消す為に…!」

あぁ…そういうこと。

この女の子は、魔導師排斥論者なのか。

そういう人間が、この国に一定数いることは知っていたが…。

すると。

「ん…?」

「あ、おはよう」

意識を失っていた二十音が、目を覚ました。

いや、もう二十音じゃないかもしれない。

「君は誰?」

「あ…?羽久だけど…」

この喋り方、成程羽久だ。

お帰り。

良かった。まだ二十音のままだったら、また眠らせなければならないところだった。

「…何がどうなってんだ?これは」

風穴の空いた牢屋。髪の長い担当官を交互に見て。

「…シルナ。三行で」

「うーん…。1.『前の君』が出てくる。2.牢屋を破壊。3.担当官の正体が、魔導師排斥論者の女の子だと判明」

「はぁ…?色々衝撃展開だが…」

とりあえず、分かりやすくまとめてみたものの。

ずっと眠っていたのであろう羽久にとっては、展開の変化が早過ぎてついていけないんだろうなぁ。

「魔法で作った仮面で、顔を隠してたらしいよ」

「そんな奴が魔導師排斥論者…?甚だしい矛盾だな」

うん。私もそう思った。