───────…その頃。

牢屋の中で、私はぼんやりと虚空を見上げていた。

なんかもう色々と限界って感じがする。

当然、私のもとにはイーニシュフェルト魔導学院が閉鎖されたというニュースが届いていた。

いつも私を尋問する担当官が、嬉しそうに教えてくれた。

さすがに、ちょっとショックだった。

もうこうなったらさっさと裁判して、さっさと判決を出してくれれば良い。

とはいえ、私は学院のことなんかより、もっと気になるものがあった。

もうそろそろタイムリミットが来るんじゃないか、と。

もしそうなったとき、この国は無事でいられ、

と、考えた瞬間。

私の目の前にあったはずの、分厚いコンクリートの壁が。

一瞬にして、外の風景に変わった。

「!?」

冷たい箱の中が、一瞬で外になった。

ぽかんとしていると、目の前に…あの子がいた。

「…しーちゃん」

「…二十音(はつね)…!?」

何でここに、いや…考えるまでもない。

…タイムリミットなのだ。

だから言わんこっちゃない。牢屋ぶち壊しちゃってこの子。

泣きそうな顔をして、私にしがみついてきた。

「しーちゃん…」

「…よしよし。ごめんね。寂しかったね」

目を覚ましたとき、私が傍にいなくて心細かったろうね。

私の気配を追い求めて、ここまで来たんだろう。

だからってコンクリートぶち破るとは。

「何事だ!?」

そこに、異常を嗅ぎ付けた警官の皆さんがやって来た。

そりゃこれだけ爆音立てれば、気付かない方がおかしい。

「…!?お前、羽久・グラスフィア…!?」

まぁ…そう見えるよね。見た目は。

中身は全くの別人なんだけど…。

「…」

二十音は私から離れて、鉄格子と、拳銃や警棒を持った警官達をじっと見た。

そして。

「…しーちゃん、閉じ込められてるの?」

「え、あぁ…。…うん、まぁ…」

たった今君が壁をぶち壊したから、閉じ込められてる気はしないけどね。

「…あの人達は、しーちゃんをいじめる人?」

「どちらかと言うと…いじめる側になるのは君かな…?」

「…しーちゃんをいじめる人は」

二十音は、私の話をちっとも聞かず。

警官達を睨み付けた。

「…私が奪う」

…そう言って、あの子は銀色の懐中時計を手にした。

…不味い。

あの子にあれを使わせてしまう訳には。