レティシアさんは、他の職員に了解を得て、私を奥の部屋に入れてくれた。

彼女は卒業していないとはいえ、同じイーニシュフェルト魔導学院に在籍していた者同士、積もる話はある。

しかし、今は母校の思い出話に花を咲かせている場合ではない。

「…レティシアさん。この度、ここの図書館に所蔵されている禁書が、学院長室で見つかったこと…知っていますよね」

失礼だとは思いながらも、早速本題に入らせてもらった。

対するレティシアさんも、余計な前置きは一切せず、質問に答えてくれた。

「勿論です」

「…禁書は、閉架になっているはずですが。それに、簡単には解けないように封印も…」

「はい。並みの魔導師では簡単には解けないでしょう。ですが学院長ならば…雑作もないことのはずです」

「…でしょうね」

自慢ではないが、私でも容易く解いてしまえるだろう。

私が解けるくらいなのだから、学院長の手にかかれば…朝飯前のはず。

「では、今抜き取られた禁書は…この図書館にはないんですよね?」

「はい。素人の手に渡るのは危険ですから、返還して欲しいと要請したんですが…。証拠品だから、こちらで預かるの一点張りで」

先程、私自身がこの目で押収された禁書を見てきた。

だから、この図書館に戻されていないのは当然のこと。

それでも、私は敢えて尋ねた。

「禁書が抜き取られていることに、誰も気づかなかったんですか?」

「…痛いところを突かれましたね」

レティシアさんは、気まずそうな顔をした。

「す、済みません。そんなつもりは…」

純粋に、思い浮かんだ疑問を口にしただけだったのだが。

こんな言い方じゃ、レティシアさんにとっては責められているようにしか聞こえまい。

禁書を盗み出されていることに、気づかないのは当然だ。何より、相手はあのシルナ・エインリー学院長なのだから。

「良いんです、我々の怠慢が招いた結果だと自覚していますから」

「…ごめんなさい。失礼なことを」

「気にしないでください。図書館スタッフは、普段禁書を所蔵しているフロアには入りません。規則で、一定以上の技量を持つ魔導師と同伴でなければ入れないことになっていますから」

「…存じています」

たまに、魔導部隊に王立図書館から、「禁書フロアの定期点検をするので、魔導師を派遣して欲しい」と要請が来る。

魔導書の扱いに長けているとはいえ、魔導師でない一般人が禁書に触れるのは、あまりにも危険だ。

「ですから、警察から証拠品として、うちに所蔵されているはずの禁書が押収された、と連絡が入って初めて、禁書が抜き取られていることに気づいたんです。言い訳をするつもりはありませんが、こればかりは…」

「…えぇ。分かっています」

レティシアさん達にとっては、内心、そんなの知ったことではない、と思っただろう。

いくら禁書を管理する立場とはいえ、彼女達は禁書を所蔵するフロアに簡単には入れず、封印を施しているのも魔導師であって、彼女達ではない。

自分達はろくに近づくことも出来ないのに、いきなり「お宅で管理してるはずの本が盗み出されてるんだけど!」と言われても、そんなこと言われたってどうしようもない、というのが本音だろう。