私はその帰りに、王立図書館に向かった。

確か、イーニシュフェルト魔導学院の元生徒で、羽久さんとも面識のある女性が、今は王立図書館に勤めていると聞いた。

彼女に話を聞いてみようと思ったのだ。

名前は、確か…。

「こんにちは」

ともかく尋ねてみようと、私は魔導書フロアで本棚に本を収めていた女性職員に、声をかけた。

「はい、こんにちは。何かお探しですか?」

「あ、いえ、本ではなく…。ここにレティシア・リーグラードさんという方がお勤めだと思うのですが。失礼ですが、彼女を呼んで頂けませんか?」

確か、そんな名前だったはずだ。

すると、彼女は驚いた顔をして、本をかごに入れ、私に向き直った。

「私がレティシア・リーグラードです。…あなたは?」

「…!あなたが…」

まさか、一発で当ててしまうとは。

ならば、話が早い。

「…失礼しました。私、シュニィ・ルシェリートです。聖魔騎士団の副団長で、魔導部隊の隊長をしています。それから…イーニシュフェルト魔導学院の卒業生でもあります」

「イーニシュフェルトの…。優秀な魔導師なんですね」

「そんなことは…」

「…イーニシュフェルト魔導学院は、今大変危機的状況にあると聞きました。学院長先生が逮捕されたことも」

「…えぇ」

知らないはずがないだろう。

嫌でも耳に入る。

「私がイーニシュフェルトにいたのは、ほんの僅かな期間でした。でも…あの学院長があんなことをするとは、到底思えません。私は決して信じていません」

「レティシアさん…」

こんなところにも、学院長の無罪を信じる人がいる。

あの方の人望には、本当に感心させられる。

やっぱり、あの方だけは絶対に助けなくては。

「…シュニィさん。あなたも、学院長の無罪を信じている人ですか?」

「はい。私は学院長先生の無罪を証明する為に動いています。…あなたに話を聞かせて欲しいんです」

「…そういうことなら、私も協力します」

それは、大変有り難い。

しかし、その前に…確認しておかなければならないことがある。

「…学院長先生は、今や思想犯。判決が確定してしまえば、死刑は免れないでしょう。あの方を庇ったとなると、あなたも、ただでは済まなくなるかもしれません」

「…」

「ですから、無理にとは言いません。今ならまだ引き返せます。危険を犯してまで…」

「…構いませんよ、そんなこと」

レティシアさんは、少しも臆することなく、あっけらかんとそう答えた。

「あの方がいてくれたから、私は『二回目』を生きることが出来てるんです。あの方に恩返しが出来るなら、何でもやります」

…二回目?

もしかしたら命さえ失うことにもなりかねないのに、彼女は全く動じていなかった。

死ぬのが怖くないのか。

と言うより、肝が据わっているのだ。

まだ若いだろうに…。まるで、一度死を体験したかのような…。

なんて、そんなことがあるはずがないのだが…。