「私、どうしても腑に落ちないんです。学院長先生が、禁書を持ち出していたなんて」

「それは…俺だって信じられないが」

「だから私、証拠品として押収された禁書をこの目で見てこようと思います」

「…は?」

人伝の情報など、当てにはならない。

やはり、自分の目で見て確認しなくては。

「だ、だが…。素直に見せてくれるとは思えない。面会さえ拒否されたと、羽久が…」

「分かっています。ですから、少し危険な橋を渡るつもりでいます」

虎の子を得るには、虎に食われる覚悟をしなければならない。

それは当然だ。

「…なら、俺も行く。お前一人では…」

「いいえ、私が一人で行きます。あなたまで危険に巻き込んで、万が一のことがあったら、アイナが一人ぼっちになってしまう」

「…!なら、俺が代わりに行く。お前は残れ」

アトラスさんなら、そう言うと思いました。

でも、それじゃ駄目なのだ。

「それは無理ですよ。あなたは、禁書の扱いはまるで知らないじゃないですか」

「うぐっ…。そ、それは…」

「だから残っててください。アイナをお願いしますね」

「…」

アトラスさんは、それは悔しそうに口をもごもごさせ。

それから。

「…分かった。でも必ず、無事に戻ってこい。帰ってこなかったら…誰を倒してでも、俺が迎えに行くからな」

まぁ。なんとも頼もしい。

私は頷いて返したが、勿論アトラスさんを巻き込むつもりはなかった。

いざとなったら、私一人が罪を被れば良い、と思っていた。

学院長があんなことをしたのも、私が唆したのだと主張すれば、少しは罪が軽くなるかもしれない。

私は、アルデン人だから。

アトラスさんは怒るだろうけれど、でも学院長の命は、私の命よりも重い。

私が罪を被ることで学院長の命が助かるなら、その方が良い。

覚悟を決めて、私は学院長先生を収監している施設に向かった。