「え、いや…それは…」

「…」

その顔を見れば分かる。

やっぱり、彼女が言ったのだ。

ならばこの瞬間に…彼女は…俺の敵だ。

…と、思ったのに。

「…ど、どうして知ってるの?」

「…?」

「お願い、誰にも言わないで。私だって怖いんだよ。何であんな授業に呼ばれたのか、私にも分からないの。何の授業をされてるのか分かったとき、逃げ出したかったんだけど…。学院長が怖くて、逃げられなかった…」

「ち、ちょっと…Iさん?」

「せめて誰かに言わなきゃと思って、警察の人に…。私だって怖かったんだよ!自分が優秀だなんて、一度も思ったことない。それなのに学院長に呼び出されて…」

「Iさん、ちょっと待って。落ち着いて」

Iさんは、泣きそうな顔で必死に「自分も怖かったんだ」と繰り返した。

これはどういうことなんだ?

俺はずっと、シルナさんは冤罪だと思っていた。

禁忌の魔法や、危険思想を刷り込む為の授業など、行ったはずがないと。

だから、証言をした生徒は、皆妄言を吐いていただけなのだと。

シルナさんを陥れる為に、嘘をついているのだと。

でも、Iさんのこの発言。

彼女が慌てたのは、てっきり嘘を暴かれたからだと思った。

しかし、彼女は何と言った?

…授業を、受けた?

禁忌の授業を受けた?

つまり、妄言でも嘘でもなく…本当に…そんな授業が行われたということか?

「君は…本当に授業を受けたのか?学院長から、禁忌の魔法を教えられたのか?」

「教えられただけで、使ったことなんてない!使おうと思ったことも…」

禁忌の魔法を不正利用しようとしてると思われたらしく、Iさんは必死に抗弁した。

俺は彼女が禁忌の魔法を使おうと、使うまいと、どうでも良いのだ。

「君が禁忌の魔法を使うなんて思ってないよ。ただ…本当にそんな授業が行われたのか、知りたくて」

「あ、あぁ…。そういうこと?授業は…あったわ。確かに。吐月君は、呼ばれなかったの?」

「…」

呼ばれるはずがない。

「本当に怖かったのよ。学院長が声をかけてくれたから、最初は喜んでついていった…。学院長自ら教鞭を取られる機会なんて、ほとんどないもの…」

あぁ…彼女は、そう思ってるんだっけ?

「そうしたら、いきなり『人間を洗脳する為の魔法』や、『人間を言いなりにさせる魔法』を教え始めて。他の生徒が、声を震わせながら言ったわ。それは禁忌の魔法じゃないのかって…」

「…」

「すると学院長は、危険思想について語り始めたの。人間は無能で、魔導師より遥かに格下なんだって。だから魔導師が人間を滅ぼして、上位種である魔導師だけが世界を支配するべきだって、言い始めて…」

「…」

人間が…魔導師より格下。

あのシルナさんが…そんなことを…。

「授業の後、学院長は皆に口止めをしたわ。この話を他の誰かにしたら、退学処分にするって。見たこともない、鬼のような顔で…。…本当に怖かった」

Iさんは、涙ながらにそう語った。

彼女が嘘を言っている訳じゃないことは、聞くまでもなかった。