その日の夜、俺はベルフェゴールと共に、シルナさんが収監されている施設に、こっそり侵入した。

一言で言うのは易しだが、ベルフェゴールの力を借りて、ようやく出来たことだ。

それでも見つかってしまう可能性は充分にある。

それなのに何故、こんな危険なことを実行したのかと言ったら。

「おい吐月、何探してるんだよ?」

ベルフェゴールが、ぱたぱたと小さな羽を羽ばたかせながら、小声で尋ねた。

「急がないと見つかるぞ」

「分かってる。もう少し…」

早くしないと見つかる。それは分かってるけど。

焦れば、余計に手間取ってしまう。

俺は一つ深呼吸をして、書類の山を掻き分けた。

…駄目だ。ない。

「何探してるんだって。俺様も探すよ」

「ありがとう。シルナさんを逮捕に至らしめた証拠についての資料を探してるんだけど」

「証拠…。生徒の証言とか、そういうのか?」

そう、それ。

「必ず何処かにまとめた資料があるはずなんだ。まずはそれを見つけて、シルナさんを告発した生徒が誰なのかを特定する」

「成程…。やりたいことは分かったが…。ったくお前も平気で危ない橋を渡りやがる」

「…ごめん」

否定のしようがない。

「気にすんな。ここまで来たんだ。付き合ってやるよ!」

ベルフェゴールは、小さな身体で頼もしく頷き。

俺と一緒に、資料探しを手伝ってくれた。

…の、だが。

やはり、そう簡単には見つからない。

鍵つきの金庫にでも入れられているのだろうか?

別に開けられないことはないが、開けるのに時間がかかりそうだ。

…すると。

「吐月!これ」

「何?」

ベルフェゴールが、何かを見つけた。

無造作に机の上にばらまかれた紙の束を退けると、そこには黒く、分厚いファイルがあった。

帯を見ると、『シルナ・エインリー事件捜査資料』という、なんとも分かりやすいタイトル。

「…これだ!ベルフェゴール、ありがとう」

「良いから早く開けてみろよ。そろそろ逃げないとマジで捕まるぞ」

そうだった。

俺は暗闇の中、急いでファイルを開いた。