俺はベルフェゴールに、事の次第を全て話した。

学院長が逮捕されたこと。

生徒の誰かが嘘の証言をしたことも。

ベルフェゴールだってシルナさんのことは少なからず知っているので、逮捕されたと聞いて驚いていた。

その上で。

「話は分かったけどよ…。何で吐月が動かなきゃならないんだ?吐月は今、学生だろ?」

学生の身分でしかない俺が、下手に動けば。

逆に、羽久さんやシルナさんの立場を悪くしてしまうことにもなりかねない。

ベルフェゴールは、それを危惧したのだろうが…。

「…俺は学院長に、返しきれないほどの恩がある。だから…少しでもそれを返したい」

「そりゃ分かってるよ。俺様だって同じ気持ちだ」

「なら…」

「でも、だけどよ。危険じゃねぇか?本当にあの男をハメた奴がいるなら、学院長を助けようとすれば、その時点でそいつらにとっては、お前も敵だぞ」

…そうなるだろうな。

今度は、俺が逮捕されることになりかねない。

そして俺には、前科がある。

俺を庇ってくれたのは学院長なのだ。学院長が逮捕され、俺まで捕まってしまったら、最早俺を庇ってくれる者は誰もいない。

今度こそ、処刑かもしれない。

「…だからこそだよ、ベルフェゴール」

下手に動けば、自分まで捕まる。

それは羽久さんも、他の魔導部隊の方々も変わらない。

だからこそ、彼らは自由に動けない。

特に羽久さんは、シルナさんから学院のことを、生徒達のことを頼まれている。

好きなように動く訳にはいかない。

でも、俺はどうだ?

俺に背負うものはない。守るべきものなど、己の命以外には何もない身だ。

ならば、自由に動けるのは俺だけだ。

自由に動ける俺だけが、動かなければならない。

「…俺がやるんだ。俺にしか出来ないんだから」

「…お前がそうしたいって言うなら、俺様は従うよ。…学院長がそれを望んでるかどうかは、また別の話だろうがな」

「…そうだね」

あの人は、俺が自分の命を危うくしてまで助けられることを望まないだろう。

でも、あの人が望むかどうかではない。

失われてはならない命があるのだ。

「あと、俺様はみすみすお前を殺させるつもりないぞ。お前が捕まって、処刑されるって言うなら、俺様は全力でそれを妨害する。生きることを諦めるなんて、俺様は許さないからな」

ベルフェゴールは、俺の手のひらの上に乗って、そう言った。

一瞬、俺は驚いてしまった。

…雪刃なら、絶対言わなかったろうな。

「…勿論、そのつもりだよ」

そんな風に言ってくれる相棒がいるんだ。

俺だって、そう簡単に捕まるつもりはない。