俺は、一人で学生寮の自分の部屋に戻った。

そして。

「…ベルフェゴール」

身体に宿す魔物の名前を呼んだ。

すると。

「おう!何だ?」

見てくれは、手のひらサイズの小さなコウモリ。

しかしその実、このベルフェゴールは冥界でも最上位の魔物。

そして今は、俺の相棒である。

「頼みがあるんだ。ベルフェゴール」

「ほう!何でも言ってくれ。また『じっしゅーくんれん』って奴か?」

ベルフェゴールが言ってるのは、授業でたまに行われる実習訓練のことでる。

俺は魔物召喚専門の魔導師なので、訓練の度、ベルフェゴールには世話になってる。

イーニシュフェルトとはいえ、まだ学生。同級生にとって、ベルフェゴールの力は正にチート級。

お陰で、実習訓練で俺が負けたことは、一度としてない。

強過ぎる魔物を召喚して無双、なんて他の生徒からすれば顰蹙を買いそうな行為だが。

学院長の教育の賜物か、この学院には、そんな俺を僻んだり、敬遠する生徒はいなかった。

皆素直にベルフェゴールを羨望の眼差しで見つめ、またベルフェゴールと組んだ俺を便利な練習相手と思って、学年を問わず「訓練に付き合ってくれないか」と頼み込んでくる生徒もいる。

当然彼らと模擬戦をしても、彼らが勝利することなど一度としてないのだが。

それでも、彼らは負ける度に、何故負けたのかを真剣に考え、「もっとこうしたら良かったかな?」と俺にアドバイスを求めてきた。

上昇思考が高いのだ。ここの生徒は。

同級生に嫉妬し、僻むより先に、どうすれば自分がもっと強くなれるかを考える。

成程、さすがはあの学院長が創立し、運営している学校だ。

生徒の質はピカ一だ。

勿論、俺の目につかないだけで、そういう生徒ばかりではないのかもしれないが…。

この上昇思考の高さには、ベルフェゴールも感心しているらしく。

何より、模擬戦の度に「強い」「格好良い」と人間達に褒めそやされるのが素直に嬉しいらしく。

ベルフェゴールも、実習訓練を楽しみにしている。

まぁ、その褒め言葉の前には大抵、「小さいのに」とか、「可愛い見た目なのに」なんて枕詞がついているのだが…それは聞こえなかったことにしている。

…さて、話が逸れてしまったが。

今回は、実習訓練ではない。

「…学院長を陥れた犯人を探そうと思うんだ」

多分、これが出来るのは俺だけだから。