──────今から、二十年以上も前。

私は、小さな村の、貧しい農家の家に生まれた。

父親はルーデュニア聖王国の生まれだけど、母親はアルデン人だった。

アルデン人は、かつてルーデュニア聖王国の隅っこにあった小さな一族の総称だ。

何千年も前に、ルーデュニア聖王国に併合され、今は故郷すら失った、憐れな民族。

その数少ない生き残りの一人が、母だった。

そして母は私を生み、私もまた、生き残りの混血アルデン人となった。

アルデン人は、見た目ですぐにそうと分かる。

特徴的な髪の色をしているからだ。

アルデン人の特徴である、灰色がかった白っぽい髪を揶揄して、よく「灰かぶり」と言われたものだ。

この言葉はアルデン人に対する蔑称であり、ルーデュニアでは、アルデン人というだけで馬鹿にされ、からかわれ、差別されていた。

というのも、これは何千年も前の歴史に由来するのだが。

私の故郷アルデン地方では、普通の魔法ではなく、人を呪ったり、殺したりする魔法…呪い魔法を得意とする魔導師が数多くいたらしく。

私自身は呪い魔法は全然得意ではないのだが…。とにかく、アルデン地方では、そういう…ルーデュニアでは異端とされている呪い魔法の研究が進んでいた。

呪い魔法はとても陰湿だし、凶悪な魔法だ。

ほんの少しの魔力でも、多くの人を呪い殺すことが出来る。

ルーデュニア聖王国は、そんなアルデン地方の呪い魔法を恐れた。

当たり前だ。アルデン人の魔導師が本気になれば、正体不明・治療法も確立していない疫病を蔓延させたり。

怪しい呪術をかけて、人を異形の形に変えたりと、恐ろしい魔法を使うことも出来た。

勿論、アルデン人にそのつもりがあれば、の話だが。

私が聞くところによると、アルデン人にそんなことをするつもりは、全くなかった。

呪い魔法を研究してはいるが、彼らは誰かを呪ったり、殺したりするつもりはなかった。

彼らがそんな魔法を研究するのは、小さな一族を守る…つまり、自衛の為であり。

本当に使うつもりなんて毛頭なかったのである。

けれども、ルーデュニア人は、それを信じなかった。

だからこそ、悲劇が訪れてしまったのである。