吐月・サーキュラス。

幼女連続殺人事件の犯人であり、シルナが助け、今はルーデュニア聖王国生粋の召喚魔導師として、イーニシュフェルト魔導学院の学生をやっている男である。

「…丁度良かった。呼ぼうとしてたところだったんだ」

学生が本当に、「学院長が禁忌の魔法について授業をした」と証言したのなら。

学生の立場である吐月なら、俺の知らないことを知ってるかもしれない。

「…今回の騒ぎは、吐月も知ってるよな」

「…えぇ。生徒の間でも、その話で持ちきりです」

そりゃあそうだろう。

シルナが逮捕されたせいで、授業どころじゃないんだからな。今は。

「…吐月。生徒の誰かが、シルナが犯人だって証言したらしい。誰が言ったのか、知ってるか?」

「…それは…」

さすがに、吐月も口ごもった。

吐月にしてみれば、告げ口に当たるのだろう。

「…別に、証言した生徒を連れてきて脅すつもりはないよ」

そんなことしても証言を覆しはしないだろうし、むしろシルナの足を引っ張りかねない。

まぁ、証言した生徒は間違いなくトチ狂ってるか、誰かに脅されてもしているのだろうから、呼び出して「お前どういうことだよ」と詰め寄ってやりたくはあるがな。

シルナが禁忌の魔法なんて、教えるはずがないだろうが。

「…残念ながら…俺も、生徒の誰が証言したのかは分かりません。生徒の間でも…犯人探しみたいになってます」

「…そうか」

自分が証言しました、と吹聴して回る生徒はいないか。

さすがにな。

「皆驚いてるんです。あの学院長がそんな禁忌を犯すなんて信じられませんから。俺だって…学院長がそんなことをするとは思えない」

「…他の生徒も、信じてないんじゃないか?」

シルナはあんな性格なものだから、生徒には人気の先生だ。

味方になる生徒は多いだろう。

「えぇ。でも…正直、皆…半信半疑なんです。生徒の間では、『学院長は自分が才能を見込んだごく一部の生徒だけを集めて、特別に授業を行っていた』って噂になってて」

…何だと?

「もしその噂が本当なら、選ばれなかった生徒は、学院長に才能がないって烙印を押されたことになりますから…。複雑な思いになりますよね」

「…そうだろうな」

優秀な者だけが呼ばれる授業に、自分は呼ばれなかった。

噂が本当なら、学院長は自分を無能だと思ってるってことだ。

「逆に、クラスの中で比較的優秀な生徒は、必死に『自分は特別授業には呼ばれてない』って主張してますよ。皆にハブられたくないから…」

「…」

…無理もないだろうな。

特別授業に呼ばれた、なんて言えば「俺はお前らと違って、学院長に才能を見込まれたんだ」って宣言するのと同じだ。

顰蹙を買うに決まってる。

呼ばれていようと呼ばれていまいと、皆が口を揃えて『自分は呼ばれてない』と主張するだろう。

実際は、特別授業なんて行われたはずがないがな。

成程、そんな噂が広まってるなら、生徒が疑心暗鬼に陥るのも当然だ。