アイナがいては、もう説教は出来ない。

もう夜も遅いのだから、アイナを寝かせなくては。

そして、アトラスさんが傍にいないと、アイナは寝室にすら行かないだろう。

仕方なく、私はアイナに免じて、お説教を切り上げることにした。

全くもう。アトラスさんも分かっていて、アイナと一緒に寝る、と言ってるんじゃなかろうな。

「おかあしゃまも。はやくはやく」

「はいはい。今行きますよ」

アイナに袖を引っ張られ、私はアイナを宥めながら一緒に寝室に向かった。

何だか上手く丸め込まれたような気がしなくもないが、娘の顔を見ていたら、私も怒りが消えてしまった。

大きなベッドに、アイナを真ん中に挟むようにして、家族で川の字で横になる。

「アイナ、今日は良い子にしてたか?」

アイナが可愛くて堪らないらしいアトラスさんは、アイナの頭を撫でながらそう聞いた。

毎日聞いてる。これ。

「うん。してたよ」

「そうか、そうか。アイナは良い子だな」

「えへへ…」

本当に今日アイナが良い子だったのかは、私達には分からない。

エレンに聞いてみないことには。

しかしアトラスさんはいつもこう。アイナの自己申告で、良い子だったと頭を撫でる。

全く、娘が可愛いのは分かるけど、たまにはもっとこう…父親の威厳と言うか、ビシッとして欲しいときもあるのだが。

どうやらアトラスさんには、無理な相談であるらしい。

かく言う私も。

「おかあしゃま、ごほんをよんで」

と、娘に頼まれてしまうと。

もう遅いんだから早く寝なさいとか、ご本は明るいうちにとか言って、叱らなきゃならないと分かっているのに。

「…仕方ありませんね。じゃあ、一冊だけですよ」

ついつい、私はベッドサイドに置いてある本を一冊手に取って、広げて読んであげた。

ちなみに私が読むのはいつも魔導書で、まだ幼いアイナには、到底分かるはずがないのだけど。

私が魔導書を読むときの声は、アイナにとって子守唄であるらしく。

ほんの十分と読まないうちに、アイナは小さな寝息を立てていた。

「ふぅ…。ようやく寝てくれましたね。全く、まだまだ小さな子供のようなんですから」

「まだまだ小さな子供だからな。アイナは」

「あなたがそうやって甘やかすから…もう」

とは、言っても。

私もあまり、人のことは言えないのだけど。

アトラスさんは、寝息を立てる小さな娘の髪を、いとおしそうに撫でた。

その様子を見ると、私は今日も、心が温かくなった。

良かった。私の娘は愛されてる。父親からも母親からも、こんなにも愛してもらってる。

私の娘なのに…ちゃんと大事にしてもらってるんだ。

そう思うと、私は嬉しかった。