それがお人好しだと言うなら、まぁそうなのかもしれないけれど。

少なくとも私は、彼を助けておきながら、そのまま牢屋に閉じ込めておしまい、なんて薄情な真似は出来ない。

それだけの話だ。

それにほら、図々しい話をさせてもらうなら。

今恩を売っておけば、いつか返してくれる日が来るかもしれないし、来ないかもしれないだろう?

そんな打算もちょっとはあるので、私は別にお人好しな訳ではないのだ。

「まぁ良いじゃないか。これで一件落着。私もようやくいつもの業務に戻れるというものだよ」

「…」

その、胡散臭そうな目やめて。

良いじゃない、日常を謳歌したって。

折角帰ってきたんだから。

「これでようやく平穏に…」

「なってねぇよ。シュニィの依頼忘れてるだろ、お前」

へ?

「シュニィちゃんの…?吐月君のことなら、解決したでしょ?」

「馬鹿。禁書の件だよ」

あ。

そういえば…『禁忌の黒魔導書』の捜索を頼まれてたんだっけ…。

「…そうだった…」

「…仕方ない、シュニィに言っとくよ」

「え?何を?」

こちらはまだ何も進んでないから、シュニィちゃんに報告することなんて何も、

「シルナは持病の認知症が進んで、禁書どころか老人ホームに入らなきゃならないから、この依頼はパスさせてもらうって」

「やめてボケてないから!大丈夫思い出したから!」

ちゃんとやる。捜索ちゃんとやるから。

そんな怖いこと言わないで。シュニィちゃん素直だから、本気にしちゃう。

「忘れる訳ないでしょ私が!大丈夫だよ」

ちょっと怪しかったのは内緒である。

「本当かよ?実はちょっと怪しかったんじゃないのか」

ぎくっ。

何でそんなに鋭いの、羽久。

「と、とにかく。吐月君の件が片付いたんだから、次は禁書の方を…」

と、言いかけた、そのとき。

何の前触れもなく、学院長室の扉が開いた。

何者だ、と振り向くと。

そこには、青い制服を着た警官が五名ほど、わらわらと入ってきて。

そして、五人の中で一番位の高そうな一人が、白い紙を一枚、私に突きつけた。

「イーニシュフェルト魔導学院、学院長シルナ・エインリーだな。魔導教育法違犯の疑いで、逮捕する」







…あれ。