アトラスさんにとっては、助け船だったことだろう。

「おとうしゃま、おかえりなさい!」

駆け寄ってくる小さな女の子を、アトラスさんは両手を広げて抱き止めた。

「アイナ…!ただいま。まだ寝てなかったのか?」

「アイナ、おとうしゃまがかえってくるまで、まってたの」

「そうか。待っててくれたのか」

アイナの頭を大きな手のひらで撫でると、アイナは嬉しそうにアトラスさんの胸に顔を埋めていた。

すると、その後ろから。

「お嬢様…!いけません、奥様と旦那様の邪魔をしては…!」

いつも、私達の代わりにアイナの面倒を見てくれているベビーシッターのエレンが、慌てて追いかけてきた。

どうやら、アイナはエレンの制止を振り切ってやって来たらしい。

「さぁ、お嬢様!もう夜も遅いんですから、早く寝室に行きますよ!」

「いや!アイナはおとうしゃまとねるの」

きっぱりとそう言って、アイナはアトラスさんの首に腕を回して、しっかりとしがみついた。

あらあら。

「お嬢様!我が儘を言ってはいけませんと、あれほど…」

躾に厳しいエレンは、アイナの我が儘を叱ってくれようとしたが…。

私は苦笑いして首を横に振り、エレンを制した。

こうなっては、アイナを連れ戻そうとしても無駄だからだ。

アイナだって、ちゃんと分かってる。

こういうとき、アトラスさんがアイナを突き返すはずがないのだということを。

「良い、良い。一緒に寝るから。なぁ、アイナ。お父様と一緒に寝よう」

「うん!」

ほら、言った通り。

案の定、アトラスさんはアイナをあやすように背中をポンポンと優しく叩いていた。

これには、エレンも呆れたように溜め息をついていた。

私も苦笑いである。

全く、アトラスさんはいつもこれだ。

自分の娘には甘いのだから。

そう…娘。

アイナは、私とアトラスさんの間に出来た、可愛い一人娘なのである。