目の前に、小さなコウモリのような生き物が、パタパタと羽を羽ばたかせていた。

な…何?

「お前は今日から俺様の相棒になるんだぞ!勝手に諦めてんじゃねぇ!」

「は…?」

「何をボケッとしてんだ」

「…コウモリが」

「あ?」

「コウモリが…喋った…!」

思わずそんなチープな反応をしてしまったのだが。

それが、コウモリの機嫌を損ねたようで。

「俺様はコウモリじゃねぇ!」

ベシッ、と二回目の体当たりをかましてきた。

痛かった。

「失礼な奴め。俺様を誰だと思ってる?冥界最上位の魔物、ベルフェゴール様だぞ!」

「…魔物…!?」

魔物と聞いて、俺はドキリとした。

俺の中で魔物と言えば、即ち雪刃のことだったから。

思わず恐怖に顔をひきつらせてしまったが、コウモリ…改め、ベルフェゴールは。

「…おい、お前。俺様をあの能面野郎と一緒にしてんじゃないだろうな」

「え…?」

能面野郎…って、雪刃のことだよな?

「ったく…。あんな奴と一緒にされちゃ堪らねぇな。俺は契約者を脅すつもりなんかねぇよ」

「そ、そんな…」

「俺がお前に求めるのは、魔力と…あとは、血だな」

「…!」

俺の脳裏に甦ったのは、少女の首から迸る血潮。

同じ魔物なら、ベルフェゴールもあんなことを…。

「おい、誤解するなって。俺が欲しいのは、他の人間の血じゃない。お前の血だ」

「俺の…?」

「そうだ。召喚のときにちょっと飲ませてもらったが…」

パタパタ、と飛んできたベルフェゴールが。

俺の手の甲に留まったかと思うと、針で軽く刺されたかのように、チクッ、とした。

そして、こきゅっ、こきゅっ、と五秒くらい血を啜っていたかと思うと。

「ぷはー!うめぇ!」

何やら嬉しかったらしく、くるんくるんしながら羽を羽ばたかせていた。

…。

「ナマで飲むと最高だな!」

「…」

「おい、何だよその呆けた顔は」

「え?あ、いや…」

なんか…痒くない蚊…みたいな。

どちらかと言うと…献血…に近い感覚なのか…?