…結構。

…結構危なかったよ。今のは。

「…はぁ…あぶな…」

「危なじゃねぇよ…」

羽久が、咄嗟に氷柱の時間を止めてくれた。

そのお陰で、直撃を避けられた。

羽久が止めてくれていなかったら、今頃痛い思いしてただろうね。

すると。

「う…うぐっ…っ…」

雪刃が、胸を押さえて呻いた。

いや、あれは雪刃じゃなくて…。

「…も、う…良い、から」

吐月君は、必死に雪刃を抑えながら、私達に向かって訴えた。

「もう良いから…。逃げて…」

「吐月君…」

「もうこれ以上、死んで、欲しく…。逃げて…!」

…それは。

「…いいや、吐月君。私達は、君を助けに…」

「無理だ…そんなの…!誰も…!」

彼は、呪いの言葉を呟いた。

誰かに助けを求めたいと思う度に、自分に言い聞かせてきた言葉を。

「誰も、俺を助けられない!!」

「っ!」

吐月君がそう叫ぶと同時に、再び彼は雪刃と入れ替わった。

途端に、先程とは比べ物にならないほどの魔力が膨れ上がった。

「お前は黙っていろ…!逃がすものか、こいつらはお前の手で殺してやる…」

雪刃は、吐月君を嘲笑うようにそう言った。

この声は、当然吐月君にも聞こえているはず。

彼が今、どんなに絶望しているか…手に取るように分かる。

自分が助けを求めたが為に、また殺される人がいるのだと…。

「…さすがに予想以上だよ、これは…」

私は溜め息混じりに、羽久に言った。

「あぁ…伊達に化け物名乗ってる訳じゃないな。でも、手の打ちようは…」

「よし羽久。撤退しよう」

「…は?」

羽久が私を見る目は、正しく下衆を見る目だった。

「…ふざけてんのかお前。吐月が泣いてるんだぞ…!置いて逃げるってのか」

「そんな殺意のこもった目で見ないで。作戦を変えるだけだよ」

「作戦…?」

雪刃が、これほど吐月君の身体の中に依存しているとは思わなかった。

だから。

「とりあえず羽久…。無茶を言うんだけど聞いてもらっても良い?」

「あ?何?」

「…あの人の時間、止めて。三分くらい」

「…」

「…お願いします」

我ながら、無茶言ってるな~とは思う。

あんな、闘牛のように大暴れする気満々の化け物を、ちょっと止めといて、なんて。

いかに時魔法のプロフェッショナルである羽久でも、相当キツいに違いない。

「…ちっ…。この際あいつを助けられるなら、何でもやってやる。でも、あとは何とかしろよ!」

「ありがとう」

舌打ちを漏らしながら、羽久は雪刃に肉薄し、杖を向けた。

「eimt…ptos!」

雪刃の顔が、驚愕に目を見開いたまま、ピタッと止まった。

雪刃の時間を、一時的に奪ったのだ。