「おのれ…貴様ら、私に何をした!?」

「それはこっちの台詞だよ」

何の罪もない吐月君に…何をさせた?

「私達は、吐月君を助けに来たんだ。悪いけど、君には消えてもらうよ」

「愚か者が…!あれほど、私に逆らうなと教えたのに…。性懲りもなく、小賢しい魔導師に助けを乞うとは!」

勝手に寄生している癖に、雪刃は一丁前に吐月君に悪態をついた。

「お前達を殺してやる。お前達だけじゃない。この時空にいる全ての人間を、あいつに殺させる。二度と誰にも助けを求めようなどと考えないように、躾け直してやる…!」

「…そうやって」

羽久は、小さくそう呟いた。

激しい憎悪が滲み出た声だった。

「お前はそうやって…吐月を脅してきたんだな」

何年も。

何百年も、何千年も。

彼をそうやって脅して、言うことを聞かせてきた。

成程、吐月君は…これに、ずっと縛られてきたんだ。

こんなものにずっと縛られて、がんじがらめになって…一人ぼっちで、助けを求めることも、逃げることも許されず。殺人者の汚名を着せられて。誰にも心を許せず。

「…ずっと、辛かったんだろうね」

その苦しみの元凶が、ここにいる。

たった一人の罪なき少年を、永久に縛り続けてきた元凶。

「…お前だけは、絶対に許さない」

今度こそ、救う。

吐月君を、闇の中から引っ張り出すのだ。

「羽久!」

「分かってる!」

雪刃は、鋭く尖った氷のつぶてを、弾丸のように放ってきた。

私は羽久と連携して、その一つ一つを打ち落としていった。

どうやらこの雪刃、闇属性に加えて、氷魔法も専門らしいな。

ならば、話は早い。

「行くよ、羽久」

「あぁ」

詳しく言葉を交わす必要はない。

私と羽久は、巨大な火柱を雪刃にぶつけた。

氷魔法には、弱点属性である炎魔法をぶつけるのがセオリーというものだ。

そして私と羽久は、ルーデュニア聖王国でも一、二を争う魔導師。

そんな二人の魔法を、弱点属性で受ければ、さすがの雪刃も太刀打ち出来まい。

そう思ったのだが。

「…小賢しい魔導師が…甘い!」

雪刃の、青白い氷の柱が、私達の炎を一瞬にして氷漬けにした。

「…!」

これには、さすがに驚いた。

この化け物…ここまでの力を。

「吐月君の魔力か…!」

吐月君の魔力を使って、これほどの力を生み出しているのだ。

何千年と寄生し続けているだけに…宿主の力の使い方は、熟知しているという訳だな。

「終わりだ…愚かな魔導師共」

巨大な氷の柱が、私と羽久の前に迫った。