「!?」

「よっ…と。遅くなったね、ごめんね」

薄暗い取り調べ室の中に。

シルナさんと羽久さんの二人が、突然出現した。

「!?あ、あなた達何処から…」

「あぁ、ちょっとうるさいから外野は黙ってて」

驚いて立ち上がった女性警察官に、羽久さんが魔法をかけた。

すると、彼女はまるで氷の像のように、ピタリと硬直した。

何のことはない。一時的に、彼女の時間を止めたのだ。

「やぁ、吐月君。遅くなってごめんね。約束通り、助けに来たよ」

お使いに行ってきたよ、みたいな軽いノリで。

シルナさんは、にっこりと微笑んだ。

…この余裕は、一体何処から…。

「た、助けにって…どうやって…」

「まずは、場所を移動しようか…。よし、moor」

シルナさんが杖を振るうと、一瞬にして俺達は、薄暗い取り調べ室から、彼が作り出した真っ白な空間に移動した。

こんな高度な魔法を、一瞬で…。

「今から、君の中の雪刃を引き剥がす。良いね?」

「い、良いねって…。良いですけど、そんなことが本当に…」

「出来るよ、必ず。だから安心して…まずはこれを着て」

シルナさんは、真っ白な外套を差し出した。

…これは?

「私が光魔法をかけて編み込んだ糸で作ったコートだよ」

「光魔法を…?」

「吐月君。君の中にいる雪刃は、闇属性が強い魔物なんだ。だから雪刃に寄生されている君の魔力も、闇属性に偏ってしまってる」

「…」

…闇属性。俺が?

いきなり属性とか言われても…。

「だからそれを利用して、闇属性の天敵である光属性の魔法、光魔法を使って、雪刃を追い出そうと思ってね。その為に、まずはそのコートを着て」

「は、はい…分かりました」

「大丈夫。洗濯はしてあるから。シルナ臭い加齢臭はしないよ」

羽久さんが謎のフォロー。

「失敬な!加齢臭なんてしないよ!」

「ふざけんな。おっさんの『俺は臭くない』が信用出来るか」

「えっ、そんなにおわな…臭くないよ!」

喧嘩が勃発してる。

シルナさんは、ちょっと不安になったのか、自分の臭いを確認していた。

大丈夫。何の臭いもしませんから。

それはともかく。

俺は恐る恐る、コートを着用した。

途端、まるで鎧でも着たかのように、身体がずっしりと重くなった。

「う…」

「大丈夫?やっぱりシルナ臭い?」

「違うでしょ!吐月君の闇の魔力が、光魔法と反発し合ってるんだよ」

そう、そっちだと思います。

全くもう、と言って、シルナさんは申し訳なさそうに俺に聞いた。

「えっと、前回…サヤノさん、って人が、軟膏を塗って雪刃を追い出そうとした、って言ってたよね?」

「…はい」

思い出す。あの不思議な薬。

塗った途端、苦しくなってきた。

今、このコートを着たときと同じように。

「あれも恐らく、原理はそのコートと同じだと思うよ。光魔法を練り込んでいたんだろう」

「…そうだったんですか…」

あのとき俺は、胸が苦しくなる薬、としか…。

「でも、そのコートだけじゃ追い払うことは出来ない。雪刃にとっては…精々タチの悪い嫌がらせ、くらいかなぁ?」

…それじゃ、追い出せないな。

雪刃の機嫌を損ねるだけだ。

「だから、これからが本番だ…。羽久、雪刃が暴れ出したら適度に止めてね」

「仕方ないな」

雪刃が本気で暴れたら、この人に止められるのだろうか?と、一瞬不安になった。

だが、ここまで来たら、もう覚悟を決めるしかなかった。

「じゃあ行くよ。…eurgp」

シルナさんの杖が白く光った、と同時に。

ロープで胸を締め付けられるような苦しみが襲ってきた。