警察に捕まるのは、初めてのことではない。

今まで何度も捕まったことがあるし、その度に時空を移動してきた。

今回も、遅かれ早かれ捕まるときが来るのは分かっていた。

俺の予想よりずっと早く、その時が来たというだけで。

一度捕まって、拘禁されてしまえば、当然「食事」は出来なくなる。

そうすると雪刃が暴走して、多くの人を殺してしまう。

だから毎回、捕まる度に時空を移動してきたのだ。

…ところで。

警察に捕まるのはいつものことだが、捕まった後、どのような待遇を受けるかは、国によって様々である。

さっきのように、「重要参考人として…」なんて言って、手錠もかけずに連れてきてくれるのは、警察がとても優しい場合だ。

中には、人権という言葉が紙切れのように薄っぺらい国もあって。

犯罪者に一切の人権なしとばかりに、乱暴に手錠をかけられ、銃口を突きつけられながら、引き摺られるように連行される場合もある。

そういう国ではしばしば、取り調べという名の拷問を受けたものだ。

まぁ、大抵、拷問を受ける前に時空を移動してしまうのだが…。

その点、この国は良い。

犯罪者相手でも、優しいのだ。

銃口を突きつけられることも、鞭で打たれることも、殴られることもない。

よく考えたら俺はまだ重要参考人止まりであって、容疑者にされた訳じゃない。

だから優しいのだろうか?

いや、俺に言わせれば、「重要参考人」なんて概念があることが、そもそも犯罪者に優しい。

疑わしきは犯人と同義、っていう国もある訳だから。

よく調べもせず、怪しいから、なんて理由だけで連行され。

散々拷問を受けて、牢屋に閉じ込められ。

後になって真犯人が見つかっても、当然謝罪なんてない。

やっぱお前犯人じゃなかったみたいだわ。帰れ。と追い出されて終わりだ。

そういう国も見てきたから、余計に優しい気がしてしまう。

おまけに有能だ。たった五人しか殺していないのに、俺が犯人だと目星をつけるなんて。

証拠はほとんど残していないはずなんだが。

一体どうやって見つけたんだろうな?

今後の参考として教えて欲しいものだ。

…今後があれば、の話だが。

警察署に到着した俺は、早速取り調べを受けることになった。

今度こそ拷問かと思ったのだが、連れていかれたのは、薄暗い小さな個室。

テーブルと椅子以外には何もない部屋だ。

…拷問具がないじゃないか。

「…部屋、間違えてません?」

俺は、連れ添ってきた警官に尋ねた。

「…?間違えてない。入って」

「…そうですか」

優しいんだね。

別に拷問受けたい訳じゃないから、良いけど。

椅子に座るなり、取り調べに当たった女性警官が、少女の写真を五枚、俺の目の前に並べた。

「この五人の少女に、見覚えはある?」

「はい」

俺は即答した。

この期に及んで、みっともなく言い逃れをするつもりはなかった。

言い逃れしても仕方がない。

「この少女が全員殺されたことも知ってるわね?」

「はい、勿論」

「…この事件について、何か知ってることは?」

「あります」

むしろ、知らないことなんて何もないくらいには知ってる。

「何を知ってるの?」

「何でも…」

忘れてない。

俺は何も忘れてない。

彼女達の血の味も。心臓の味も。

死に顔も。段々冷たくなっていく体温も。

「…全員、覚えてるよ」

今まで殺してきた人、全員。

忘れることなく、俺の脳裏に焼き付いてる。