─────吐月君と一時的に別れを告げ、ルーデュニア本国へ戻った私達は。







「シルナ。あいつ…どうやって助けるつもりなんだ?」

「んー…」

「何だよんーって。そもそもあの魔物は何なんだ?」

あ、それは分かる。

「毎月のように血と心臓を啜るって聞いて、ピンと来たんだよ。そんな魔物がいたはずだってね」

「厄介なのか?」

「うん。純粋に強いよ。魔物の中でも、かなり上位に位置してる」

古くから冥界に住む、人ならざる異形の生き物。

それが、魔物と呼ばれる生き物である。

魔物が私達人間世界に出てくることは、ほとんどない。

というか、基本的に魔物は媒介がなければ、人間世界には出られないはずなのだ。

出てこられても、精々数分程度。

魔物が人間世界で長時間暮らすには、人間に「喚ばれ」、その人間の魔力と同化…つまり、自分を喚んだ人間を契約者とし、その魔力に寄生しなければ生きられない。

その為、魔物は別名、召喚魔とも言われる。

雪刃というあの魔物は、恐らく契約者を求めて人間世界に姿を現し。

そこで、格好の獲物…吐月君を見つけた。

「吐月君の魔力は、魔導師の中でも天下一品だよ。あれほど魔力の多い子は、うちの生徒でもなかなかいない」

「…確かにな」

しかも、あの子はただ魔力が多いだけではない。

「それにあの子の魔力は、物凄く魔物が憑依しやすいんだ。こればかりは体質の問題だよ」

生まれながらに魔物が憑依しやすい体質というのはあるのだ。

あの子は…魔物に憑かれやすい。

雪刃にとっては、寄生先としてこの上ない逸材だったのだろう。

魔力は多いわ、憑きやすい体質をしているわ。

だから、あの子が選ばれてしまった。

「つまり…あいつは何も悪くないのに、勝手に魔物に取り憑かれて、脅されて、人殺しを強制されてた訳だな」

「そういうことになるね」

そうとも知らず、彼を猟奇殺人犯扱いして…申し訳ないことをしてしまった。

悪いのは、断じて吐月君ではない。

全て、雪刃という彼の中の化け物がやらせたことなのだ。