─────…『禁忌の黒魔導書』が、紛失。
確かに、これはただ事ではない。
迅速に七冊全てを回収し、封印し直さなくては。
それにしても、厳重な封印がしてあったはずの禁書が、何故なくなってしまったのだろう?
禁書自身が長い時間をかけて封印を解いたのか、それとも誰かがわざと、封印を解いたのか…。
考え出せばキリがないが、とにかく、あの七冊を全て揃えてはいけない。
あれが揃って、もしあの本に書かれている禁忌の呪術を使ってしまったら…大変なことに…。
「エリュティアが、おおまかな禁書の座標を何とか追ってくれました。詳しい場所までは探知出来なかったそうですが…」
シュニィちゃんが、座標を書いた紙を渡してくれた。
助かる。
ある程度座標くらい分からないと、闇雲に探し回る羽目になるからな。エリュティア君に感謝である。
ちなみに、私の教え子の一人だ。
「学院長、あなたは聖魔騎士団の人間ではありませんが…しかし、禁書の扱いには誰よりも長けています。どうか、協力してもらえませんか」
「勿論だよ、シュニィちゃん。『禁忌の黒魔導書』については、私も無関心ではいられない。ね、羽久…」
私は、同意を求めて羽久を振り向いたのだが。
羽久は私の顔を見て、びくっ、と身体を震わせ。
「あぅ…あわわ…」
あわあわしながら、シュニィちゃんの後ろに隠れ。
シュニィちゃんの服の影から、不安そうな顔で私をちらちら覗き見ていた。
…あらら。
「切り替わっちゃった」か。
「あら、ミライさんですね。こんにちは」
シュニィちゃんも分かったらしく、羽久改め、ミライちゃんの頭を笑顔で撫でてあげていた。
ミライちゃんはシュニィちゃんが好きだから、シュニィちゃんがいるときは、こうしてミライちゃんに「切り替わる」のだ。
シュニィちゃんが好きと言うより…男の人が苦手なんだろう。
「分かったよ、シュニィちゃん。こちらも色々調査してみる…けど、羽久を借りても良い?」
「はい、勿論です」
今はミライちゃんだから、ちょっと借りられないけど。
羽久に戻ったら、借りさせてもらおう。
「それから、学院長…。もう一つ、調べてもらいたいことがあるんですが」
「もう一つ?何?」
「そちらはまだ、不確定な情報で…こちらも裏付けをしているところなんです。もう少し報告がまとまったら、学院長にお見せします。禁書の件とは関係ないんですが…」
「そう…?分かったよ。じゃあ、まとまったら教えてね」
遅刻してしまったぶんのお詫びだ。
私に調べられることなら、何でも調べよう。
…それから。
実は今、ちょっとチャンスなのだ。
「…ミライちゃん。ミライちゃ~ん…」
私はシュニィちゃんの後ろに隠れてしまったミライちゃんに声をかけ、笑顔で手を振った。
ミライちゃんと仲良くなるチャンス。
しかし。
「…あぅ…」
ミライちゃんは、シュニィちゃんにぎゅっとしがみついて、びくびくと震えていた。
…そんなに怖い?私。
「アトラス君…。私、ミライちゃんに嫌われてる…」
最早涙目である。
好かれたいのに、全然好いてくれない。
「は、はぁ…。まぁ、ファーストコンタクトがちょっと…悪かったですから…」
「うぅ…。あれは…後悔してるよ…」
思い出す。ミライちゃんが初めて「出現」したときのこと。
羽久にするみたいに、怒鳴っちゃったんだよなぁ…。こらっ!みたいな感じで…。
お陰で、ミライちゃんに怖がられるようになってしまって…。
ミライちゃんからは、完全に「怖い人」だと思われているようだ。
代わりに、シュニィちゃんが物凄く好かれている。羨ましい。
「仕方ない…潔く帰るか…」
このままここにいても、ミライちゃんを怖がらせるだけだ。
嫌われ者は、すごすごと帰ろう。
「私、ミライさんともう少し遊んであげますね」
「うん、シュニィちゃん…。またね」
「それとアトラスさん…。あなたには後で『お話』があるので、家に帰ったら…ゆっくり話しましょうね?」
「うぐっ…」
シュニィちゃんの笑顔は、説教開始一分前のそれだった。
あぁ…アトラス君ごめんよ。
私の代わりに、遅刻のお説教されてくれ。
今度アトラス君に…お酒を奢ろう。うん。
教え子を置き去りにして、自分一人だけそそくさと逃げる、大変は苦情な学院長である。
でもごめん。私もシュニィちゃん怖いから。ごめん。
確かに、これはただ事ではない。
迅速に七冊全てを回収し、封印し直さなくては。
それにしても、厳重な封印がしてあったはずの禁書が、何故なくなってしまったのだろう?
禁書自身が長い時間をかけて封印を解いたのか、それとも誰かがわざと、封印を解いたのか…。
考え出せばキリがないが、とにかく、あの七冊を全て揃えてはいけない。
あれが揃って、もしあの本に書かれている禁忌の呪術を使ってしまったら…大変なことに…。
「エリュティアが、おおまかな禁書の座標を何とか追ってくれました。詳しい場所までは探知出来なかったそうですが…」
シュニィちゃんが、座標を書いた紙を渡してくれた。
助かる。
ある程度座標くらい分からないと、闇雲に探し回る羽目になるからな。エリュティア君に感謝である。
ちなみに、私の教え子の一人だ。
「学院長、あなたは聖魔騎士団の人間ではありませんが…しかし、禁書の扱いには誰よりも長けています。どうか、協力してもらえませんか」
「勿論だよ、シュニィちゃん。『禁忌の黒魔導書』については、私も無関心ではいられない。ね、羽久…」
私は、同意を求めて羽久を振り向いたのだが。
羽久は私の顔を見て、びくっ、と身体を震わせ。
「あぅ…あわわ…」
あわあわしながら、シュニィちゃんの後ろに隠れ。
シュニィちゃんの服の影から、不安そうな顔で私をちらちら覗き見ていた。
…あらら。
「切り替わっちゃった」か。
「あら、ミライさんですね。こんにちは」
シュニィちゃんも分かったらしく、羽久改め、ミライちゃんの頭を笑顔で撫でてあげていた。
ミライちゃんはシュニィちゃんが好きだから、シュニィちゃんがいるときは、こうしてミライちゃんに「切り替わる」のだ。
シュニィちゃんが好きと言うより…男の人が苦手なんだろう。
「分かったよ、シュニィちゃん。こちらも色々調査してみる…けど、羽久を借りても良い?」
「はい、勿論です」
今はミライちゃんだから、ちょっと借りられないけど。
羽久に戻ったら、借りさせてもらおう。
「それから、学院長…。もう一つ、調べてもらいたいことがあるんですが」
「もう一つ?何?」
「そちらはまだ、不確定な情報で…こちらも裏付けをしているところなんです。もう少し報告がまとまったら、学院長にお見せします。禁書の件とは関係ないんですが…」
「そう…?分かったよ。じゃあ、まとまったら教えてね」
遅刻してしまったぶんのお詫びだ。
私に調べられることなら、何でも調べよう。
…それから。
実は今、ちょっとチャンスなのだ。
「…ミライちゃん。ミライちゃ~ん…」
私はシュニィちゃんの後ろに隠れてしまったミライちゃんに声をかけ、笑顔で手を振った。
ミライちゃんと仲良くなるチャンス。
しかし。
「…あぅ…」
ミライちゃんは、シュニィちゃんにぎゅっとしがみついて、びくびくと震えていた。
…そんなに怖い?私。
「アトラス君…。私、ミライちゃんに嫌われてる…」
最早涙目である。
好かれたいのに、全然好いてくれない。
「は、はぁ…。まぁ、ファーストコンタクトがちょっと…悪かったですから…」
「うぅ…。あれは…後悔してるよ…」
思い出す。ミライちゃんが初めて「出現」したときのこと。
羽久にするみたいに、怒鳴っちゃったんだよなぁ…。こらっ!みたいな感じで…。
お陰で、ミライちゃんに怖がられるようになってしまって…。
ミライちゃんからは、完全に「怖い人」だと思われているようだ。
代わりに、シュニィちゃんが物凄く好かれている。羨ましい。
「仕方ない…潔く帰るか…」
このままここにいても、ミライちゃんを怖がらせるだけだ。
嫌われ者は、すごすごと帰ろう。
「私、ミライさんともう少し遊んであげますね」
「うん、シュニィちゃん…。またね」
「それとアトラスさん…。あなたには後で『お話』があるので、家に帰ったら…ゆっくり話しましょうね?」
「うぐっ…」
シュニィちゃんの笑顔は、説教開始一分前のそれだった。
あぁ…アトラス君ごめんよ。
私の代わりに、遅刻のお説教されてくれ。
今度アトラス君に…お酒を奢ろう。うん。
教え子を置き去りにして、自分一人だけそそくさと逃げる、大変は苦情な学院長である。
でもごめん。私もシュニィちゃん怖いから。ごめん。