あの頃の俺は、魔法とか、魔力とか魔物とか、そんなものとは関わりなく、普通の子供として育っていた。

それなのに、何故俺が選ばれてしまったのかは分からない。

ある夜のことだった。

深夜、俺は畳の部屋で、一人で眠っていた。

突然胸が苦しくなって、呻きながら目を覚ますと。

そこにいたのは、黒い着物を着た、巨大な能面だった。

それが、ゆっくりと俺に迫ってきた。

あまりの恐怖に叫び出しそうになったが、声が出なかった。

それどころか、指の一本さえ動かせなかった。

巨大な能面が、俺の胸に細く、小さな穴を開けた。

痛みは感じなかった。ただ、恐怖だけがあった。

能面は煙のように、その小さな穴の中に消えていった。

「お前は私のものだ」

耳の中に、悪夢のような一言が響いた。

それが、全ての始まりだった。