…一瞬で、頭が冷えた。

…駄目だ。

やっぱり無理なんだ。逃げられない。

「…助ける?」

「あぁ、助ける。君はその魔物に操られて、無理矢理殺人を犯すように強制されたんだろう?殺人は君の意思じゃない。だから、君を助ける。君の中から、魔物を追い出すんだ」

「…」

…そうですか。

それが出来るのなら…。

…俺は、今こんなところにいないよ。

「…助けないで。殺してください。俺を助けたいのなら、俺を殺して欲しい」

自分の意思では、自殺も出来ない。

俺にとっての救いとは、即ち死だ。

俺の命ごと、俺の中の化け物を終わらせてくれ。

それが救いだ。

「いいや、殺さない。君は生かしたまま、中の化け物だけ殺す」

「…無理だ」

「出来るよ。自慢じゃないけど、何せ私達はルーデュニアで一、二を争う魔導師だからね」

「…自慢じゃないけどって言いながら、めちゃくちゃ自慢してんじゃん」

羽久・グラスフィアが、ぼそっと呟いた。

…この人達がどれほど優れた魔導師なのかは知らないが。

そんなことはどうでも良いのだ。

「出来る」、「必ず助ける」…あの人も、かつて俺にそう言った。

だけど、その言葉は嘘だった。

だから、俺はもう信じない。

「…誰も俺を助けられない」

「助けるよ。私達が、君を救う」

「無理だ!無理だったんだから。助けるって言ってくれたけど、助けようとしてくれたけど、でも駄目だった!あの人も、村の皆も殺された!両親だって、俺を助けようとして殺されたのに!」

脳裏に、またあの殺戮の記憶が甦った。

二度と見たくない。

「俺を助けようとして殺された人の死体なんて、もう二度と見たくないんだ!」

それは、俺の中に巣食う呪いだった。