仕方なく、彼に案内されるままについていくと。

部屋の中には、もう一人の若い男性が待っていた。

「…本当に来やがったよ」

俺の顔を見て、何故か呆れ顔であった。

来ないと思われていたのか。

「来てくれたんだから良いじゃない。さて、お茶でも淹れようか?ルームサービスだけど」

「結構です…。早く質問に答えてください。あなたは、何を知ってるんですか。あなた達は誰なんですか」

「うーん…まずは何から話そうか…。そうだね、じゃあ自己紹介から始めよう。ルーデュニア聖王国、聖魔騎士団魔導部隊名誉顧問兼、イーニシュフェルト魔導学院の学院長、シルナ・エインリーです」

「…ルーデュニア…」

聞き覚えがある…。俺が以前立ち寄った時空で、少女を殺した国だ。

かつて見たことがないくらい、魔法の技術が発達した時空だった。

三人ほど殺したところで、魔導師に嗅ぎつかれそうになったから…時空を移動したのだ。

「同じく聖魔騎士団魔導部隊特務隊長、羽久(はつね)・グラスフィア」

もう一人の若い男性が、ぶっきらぼうに名乗った。

…ようやく、得心が行った。

この人達は魔導師なのだ。

だから、遥々ルーデュニア聖王国から、俺を追ってきた。

「君の名前は?ルレイア・ランディスというのは本名?偽名?」

「…偽名です」

「そうか、やっぱり。じゃあ本名は何て言うの?」

「…」

名乗るべきなのか、名乗っても良いのか、分からなくて…俺は黙ってしまった。

「じゃあ、質問を変えよう。君は…幼女連続猟奇殺人事件の、犯人だよね?」

「…」

犯人か?と尋ねたのではない。

犯人だよね?と確認したのである。

つまりこの人は…俺が犯人であることを知っている。

何らかの確信を持っているのだ。

どうして?警察でさえ、まだ俺が犯人だと断定していないのに。

でも…この人達は俺と同じ魔導師。

それも、ルーデュニア聖王国の魔導師なのだ。

だとしたら…何らかの手段を使って、俺が犯人だと特定していてもおかしくは…。

「…さっさと喋れよ。分かってんだよお前がやったってことは」

羽久・グラスフィアが、殺気のこもった目で俺に詰め寄った。

「お前、自分が何人殺したと思ってる?百人か?千人か?そんなもんじゃないだろ?なぁ。許されることだと思ってんのか?」

「…それは…」

思ってない。思ってるはずがない。

でも、だからって…。

「こら、羽久…脅さないの」

シルナ・エインリーと名乗ったイーニシュフェルトの学院長が、羽久を諌めた。

「脅すに決まってるだろ。殺人鬼に慈悲なんて…」

「違うよ、羽久。彼は殺してない。彼は殺人鬼じゃないんだ」

え?

俺はハッとして顔を上げた。

「殺人鬼じゃないって…どういうことだよ?こいつが犯人なんだろ?」

「うん、まぁそうなんだけど…。その辺りの詳しい話を聞こうと思って、彼をここに呼んだんだ。答えてくれないかな。君が何故、少女を殺すのか」

「…そ、れは…」

俺が何故、少女を殺すのか。

何故毎月のように少女を「食べ」なければならないのか。

何故そうしないと生きられないのか。

それは…。

「…」

話せなかった。

話して良いことなのか分からなかった。

もし話してしまったら。そうしたら、また…。

「…何も言えないの?」

「…」

俺は強く唇を噛んで、俯いた。

…話せない。

だって話しちゃいけないことだったら…。

「…話しちゃいけないって脅されてるの?君の中の、『本当の殺人鬼』に」

「…!」

その、瞬間。

俺は堪えようのないほどの恐怖に襲われた。