店の中に、二人組の男性が入ってきた。

一人は40代くらい、もう一人は20代くらいだった。

見た目だけは。

店員のDちゃんは、俺達の席から離れて、二人の客を案内した。

「お席こちらにどうぞー」

「あっ、いや。お客じゃなくてね、ちょっと道を…。あっ!君」

40代くらいの男性が、何かを見つけて俺達のテーブルに近づいてきた。

「わぁ、久し振り!ランディス君だよね、大きくなったね!」

彼は俺を見て、嬉しそうにそう話しかけてきた。

正直、頭の中が真っ白だった。

…誰?この人。

俺は全く見覚えがない。

それなのに、まるで旧友のように話しかけてくる。

「転校するって言ってたけど、ここに来てたんだね。懐かしいなぁ」

「え、あ…は、はい…?」

誰かと間違えてませんか、と言いたかった。

だが、この人は俺の名前を知っていた。

ランディス君、って言った。

ということは、人違いではないのだ。

ちゃんと俺のことを分かって、話しかけている。

この人、一体何…。

「良かったら、また前みたいに『食事』に行こうよ。君、好きだったでしょ?あのお店の…『真っ赤な血みたいな料理』」

「…!」

俺は愕然として、その人の顔を見上げた。

にこやかな笑顔なのに、目だけは笑っていなかった。

「『一月に一回は』必ず食べに行ってたもんね。今度連れていってあげるから。また連絡してね」

そのとき、彼の後ろにいたもう一人の…20代くらいの男性が。

誰にも見えないように、こっそりと小さな紙を俺の手に握らせてきた。

「あの…ルレイア、知り合い?」

Eちゃんが、恐る恐る尋ねてきた。

いきなり店に入ってきて、機関銃のように捲し立てるこのおじさんは、俺の知り合いかと。

俺はこんな人、知らない。

でもこの人は、俺のことを知ってる。

何故か…俺の…ずっと隠していた秘密まで、知ってる。

それは、つまり…。

どうするべきなんだ?

俺は猛烈に焦った。必死になって考えた。

どう答えるべきなのか。何と説明すれば良いのか。

どう答えれば…誰も死なないで済むのか。

「…うん、知り合いなんだよ」

俺は、震える声でそう答えた。

すると、おじさんの方がフォローを入れてくれた。

「彼が前に住んでいた家の、お隣さんなんだよ。家族ぐるみで親しくしててね」

「あ、そうだったんですか」

「うん、そう…。いやぁ、本当に懐かしいなぁ。あれから元気で…」

「ちょっと。目的忘れてない?早く行かないと日が暮れるよ」

話が弾みかけたところを、若い男性の方が止めた。

まるで、最初から台本でも決められているかのようにスムーズだった。

「あぁ、そうだった。店員さん、ちょっと道を聞きたくてお邪魔したんだよ。◯◯クリニックって、ここからどう行けば良いのかな。知人のお見舞いに行きたくて」

「あ、◯◯クリニックだったら、ここを真っ直ぐ行って、突き当たりの…郵便局を右に行ったらありますよ」

「真っ直ぐ行って、突き当たりを右だね。分かった、どうもありがとう」

にこやかにお礼を言って、彼は最後にくるりとこちらを振り向いた。

「それじゃ、ランディス君。また今度ね」

そう言って、手を振ってお店を出ていった。

若い男性は、最後にこちらを品定めでもするように一瞥していった。