「ってかさ、犯人はいつになったら捕まるんだよ?」

「さぁ…」

誰もが、そのことを考えているだろう。

犯人はいつになったら捕まるんだ。

警察は一体何をやってるんだと。

なかなか犯人の特定に至らないせいで、警察は随分と叩かれていた。

「ったく、こんなときの為にいるんだからよ。ちゃんと仕事して欲しいぜ」

やれやれ、と呆れるC君。

警察の名誉の為に言っておくが、犯人が捕まらないのは、警察の不手際ではない。

俺が、ほとんど証拠を残していないからだ。

俺はもう、何年も何百年も、同じ犯罪を繰り返し続けている。

何が証拠になるのかは、身を以て熟知している。

だから、そう簡単に捕まるつもりはない。

同じ世界で捕まるまで殺し続ける。

バレずに同じ世界で殺し続けた人数の最高記録は…軽く三桁を越えている。

俺ほどたくさんの少女を殺した人物も珍しいだろうな。

「まぁまぁ、機嫌直して…。はい、これ食べてみて」

Dちゃんが、ドン、と俺達のテーブルにパフェの皿を持ってきた。

…何これ。

「あ?これは?」

「最近の暗い空気を吹き飛ばそうと思って開発した、新メニュー。山盛りデラックスパフェよ」

…山盛りデラックスパフェ。

何が山盛りデラックスなのかと思ったら、大きなお皿の中に、コーンフレーク、チョコとバニラのアイスクリーム、生クリームがたっぷり。

その上にイチゴと、チョコレートソース。ここまではまぁ、普通のパフェだ。

山盛りデラックスパフェは、更にその上から、カットしたバナナ、りんご、桃、ブドウ、パイナップルが乗り、プチパンケーキとメープルソース、ラングドシャクッキーまでトッピングされていた。

なんとも贅沢な…欲張りなパフェだ。

「何だこれ!…カオス!」

「なんか…凄く、カロリー高そう…」

驚くC君と、食べるのを躊躇するEちゃんである。

「とりあえず食べてみてよ」

「う、うん…。…んん?」

一口パクリと口に入れたC君は、怪訝そうな顔で首を傾けていた。

その反応は何を意味するのか。

「なんか…フルーツの汁とか、溶けたアイスクリームとかがパンケーキに染み込んで…ぐじゃぐじゃしてる」

「美味しいのか不味いのかを言いなさいよ」

「…それぞれ単品なら美味かった」

あぁ。たまにあるよねそういうの。

いくら一緒に食べるのが美味しくても、一つの皿にトッピングしたら美味しくなくなるの。

ラーメンチャーハン餃子のセットってよくあるけど、ラーメンの上にチャーハンと餃子が乗ってるのって、見たことないだろ?それと一緒。

混ぜたら駄目なんだよ。別々に食べるから美味しいのであって。

このパフェは、その典型例らしい。

「え~…。駄目?不味い?」

「不味くはないけど…。美味くもない」

「何よ、はっきり言いなさいよ。…ルレイアは?」

「ん?」

俺に聞くか。

よし、じゃあまずは食べてみるとしよう。

俺は、Dちゃん特製の山盛りデラックスパフェにスプーンを突っ込んだ。

成程、確かにパンケーキに色々なフルーツやソースやアイスクリームの汁が染み込んで、何とも言えない食感になってるが…。

「…むしろそれが美味い」

特に、生臭い血の味がしないところは、最高だな。

「本当?ルレイア、アンタ素直な良い子ね!」

「おいルレイア。正直に言ってやれよ」

「正直に言ってるよ。俺は美味しいと思う」

本心である。

賛否両論ある味なのは確かだな。でも俺は美味しい。

「ありがとールレイア。アンタ良い子だわ本当。Eは?美味しい?」

「う、ん…。えっと、私は正直イマイチかな…」

Eちゃんは、色んな汁にまみれてぐちゃぐちゃのパンケーキが、お口に合わなかった様子。

駄目だったか。

「え~…?美味しいのルレイアだけ?じゃあしょうがないわね…。お会計、Cだけ徴収するわね。ルレイアとEはタダで良いわ」

「何で俺だけだよ!ずりぃよ!」

涙目になってDちゃんにすがるC君。

Eちゃんはそれを見て笑い、俺も一緒に笑った。

穏やかな時間だった。

それが例え仮初めのものだとしても、今だけは…。

「…ごめんください」

「あっ、いらっしゃいませー」





…今だけは、平穏でいたかったのに。

一瞬で、その平穏は崩された。