─────…その日、俺はC君とEちゃんと一緒に、Dちゃんの喫茶店に遊びに来ていた。









「五人目の犠牲者か…。何だか段々大事になってきたわね」

Eちゃんは、携帯を片手に頬杖をついていた。

「本当な。この間、この事件の特番で、いつも観てる番組潰れたよ」

C君も、うんざりしたような顔だった。

更に。

「うちに来てるお客さんも、しょっちゅうその話してるよ。何せ、殺された五人目の子って、うちのすぐ近くに住んでたんだもの」

Dちゃんが、溜め息混じりに俺達のテーブルにやって来て、注文した飲み物をテーブルに置いた。

「はい、これルレイアね」

「ありがとう」

俺はDちゃんが持ってきてくれた熱い紅茶に、ミルクを入れてスプーンでかき混ぜた。

この喫茶店の近く…そうだったね。

俺もそれは気づいていた。でも、他にあてがなかったのだ。

最近、ここいらの地域の住民は、ずっとピリピリしている。

それもそのはず。立て続けにこの近くで、女児殺害事件が起きているのだから。

幼い女の子を持つ親達は、決して子供を一人で出歩かせないようになった。

それどころか、留守番さえ一人でさせなくなった。

お陰で、ターゲットを探すのがますます大変になってきているのだ。

だから。

「でも…これ、もうどうしようもないよな。ニュースではさ、小さい子を持つ親はくれぐれも注意して…とか言ってるけど。今回の…Hちゃんだっけ?親が隣の部屋で寝てたんだって?」

「そうみたい…。…本当信じられないわ」

俺だって、危険だからそんなやり方はしたくなかった。

でもそうでもしないと、「食事」にありつけなかったから。

俺は、深夜に女児のいる家に侵入して。

子供部屋で一人で寝ていた女の子を殺した。

幸い、隣の部屋で寝ていた女の子の両親には、朝まで気づかれなかった。

俺はベッドの上に死んだ女の子の遺体を残して、夜が明ける前に家を出た。

朝になって、娘を起こしに子供部屋に入った彼女の両親は、眠っている間に殺された娘を見て、何と思ったのだろう。

隣の部屋で寝ていたのに、気づけなかった自分を責めただろうか。

それとも、せめて眠っている間に殺されて、苦しまずに逝けて良かったと思っただろうか。

「ってことは、親はもう四六時中子供についてなきゃいけないんじゃん」

「無理よね、そんなの…。どうしても目を離す隙はあるわよ」

「大体、子供をこれだけ殺す犯人なんだからさ…。例え親が近くにいても、親ごと一緒に殺しかねないよ」

「やめてよ、C…。そんな不吉なこと」

「わ、悪い」

C君、君本当に鋭いね。

ターゲットが見つからなくて、切羽詰まってどうしようもなくなったとき。

やったことがあるよ。それ。

一つ増えるはずだった屍が、余計に二つになっただけだ。

「四人目の子も、確か、一人でお風呂に入ってる間に殺されたのよね?」

「そうだった、そうだった。いつまでたっても風呂から上がってこないから、心配した親が見に行ったら…」

…無惨な死体になって見つかった。

あれを見つけたのは運が良かった。

こっそり風呂場の窓から侵入して、悲鳴をあげられる前に殺して、食べて…。

それが終わったら、見つかる前にまた風呂場の窓から逃げたのだ。

「もう物騒過ぎ。何でわざわざここでやるのよー…。我が儘かもしれないけど、よその県でやって欲しかったわ。風評被害凄くて、お客減ってるのよ、うち」

Dちゃんはそう言って、溜め息をついていた。

そうなんだ。

それはごめんね。

よそでやっても良いんだけど、移動の度に電車やバスを使っていたら、移動の履歴が残ってしまうから。

でもDちゃんの言う通り、この地域もだいぶピリピリしてきたから…そろそろ、遠くで「食事」しないといけないな。

被害に遭うことを恐れて、一時的に遠方に避難する家族も増えているらしいから。

この街から俺の「食糧」がいなくなってしまうと…それは、困る。

とても困ってしまう。