その日の夜。

私達は、この事件について捜査しているという警察庁本部に潜入した。

潜入とは言っても、真正面から堂々と入った。

というのも。

「…ふふふ。私が自ら編み出した、この透明魔法が役に立ったね」

魔法をかけた相手を透明にし、不可視化する魔法である。

こんな画期的な魔法なのに、羽久は、

「最低な魔法作ってるよな、お前…」

ぽつりとそう呟いた。酷い。

そりゃ確かに犯罪向きの魔法かもしれないけど。

今は役に立ってるんだから良いじゃない。

「…それと、折角潜入したのは良いけどさ」

「んー?」

「本当にこんなところまで来て、何も収穫なかったらどうすんの?」

「その可能性はあるね」

何故、こんなに捜査に手間取っているのか。

それの理由はただ一つ。相手が魔導師だからだ。

これが普通の人間の犯行なら、もうとっくに捕まってるだろう。

現場に残ってる毛髪とか衣類の繊維とか、監視カメラの映像や目撃者の情報提供によって。

でも、犯人は人間ではない。手練れの魔導師なのだ。

だから、その場に証拠をほとんど残さずに犯罪をやり遂げてしまう。

そのせいで極端に証拠が少なく、なかなか足取りが掴めない。

勿論、全く証拠がない訳ではないだろう。

せめてそれだけでも、捜査記録に残っていて欲しいのだが…。

「お邪魔しまーす…」

私達は、厳重に鍵のかけられた部屋に、そっと潜入した。

「全くとんでもない犯罪者だよ…。教師失格だな…」

それを言わないでください。

非常事態だから。

この部屋の何処かに捜査資料があれば良いのだが…。

「うーん…。どれかな…」

パソコンを弄って中を見れば、捜査資料がまとめてあるかもしれないが。

さすがにパソコンを弄ると履歴が残るので、出来れば紙の資料でお願いしたい。

あると思うのだが…。

十分ほど探し回った後で。

「…シルナ。これじゃない?」

「ん?」

羽久は、『女児連続殺人事件』というラベルが貼られた、分厚いファイルを手にしていた。

あっ、それっぽいそれっぽい。

「ナイスだよ羽久。早速調べてみよう」

「はぁ…。何で俺がこんな犯罪の片棒を…」

「大丈夫大丈夫。これも平和の為だよ」

そう言い訳して、私はファイルを開いてみた。