超急いで聖魔騎士団の隊舎入り口まで来たところに。

「あっ、アトラス君」

「あ、学院長…お久し振りです」

何を隠そう、この男はアトラス・ルシェリート。

聖魔騎士団の団長を務める男である。

魔導師ではないのだが、色々あってイーニシュフェルトの卒業生なので、シルナにとっては教え子の一人ということになる。

「どうしたんですか、学院長。今日は」

「それが…。シュニィちゃんに呼ばれてたんだけどね…?ちょっとその…遅刻しちゃって」

ちょっとどころじゃないけどね。

すると、アトラスの顔色もまた、さっと悪くなった。

「そうなんですか。実は…俺もなんです」

「え?」

「俺もシュニィに呼ばれてて…。でもちょっと…訓練に夢中になってる間に…時間を大幅に過ぎてしまって…」

「…あー…」

シルナ二世、現る。

「つまりシュニィは、アトラスとシルナの二人に、約束をすっぽかされてる訳か…」

「…」

「…」

間違いなく、怒ってるな。

二人は冷や汗をだらだらとかいていた。

特にアトラス。

同じ家に暮らしているのだから、シュニィには怒られ慣れているだろうが…それでも怒られるのは怖いらしい。

まぁ…シュニィだからな。

「アトラス君…。もしシュニィちゃんが、怒りのあまり杖を向けてきたら…何とか宥めてあげてね」

「学院長、それは無理です…。先日『夕飯要らない』を言い忘れて部下と飲みに行ったとき、家に帰ったら笑顔で杖を向けるシュニィがいて…」

「…いて、どうなったの?」

「…記憶がありません。目が覚めたら、昼になってました」

「…そっか」

何をされたのかは…考えない方が身の為、ってことだな。

二人が言い訳の言葉を必死に考えながら、戦々恐々と隊舎に入るのを、俺は後ろからついていった。

すると。

「…あら、学院長…。それにアトラスさんも。随分と…遅かったですね?」

聖魔騎士団の副団長であり、聖魔騎士団魔導部隊の隊長であり、そしてアトラスの妻でもある彼女は。

典型的な…「普段は優しいけど、そのぶん怒らせると怖い」タイプの女性である。

そのシュニィが、にっこりと微笑んで、俺達を見つめた。

その笑顔に、アトラスとシルナが生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

「しゅ、シュニィ…。済まん、遅くなった…。ちょっと…その、色々と立て込んでて…」

「大丈夫ですよ、アトラスさん。どうせあなたのことだから、訓練に夢中になって、時間がたつのを忘れた…とか、そんなところでしょう?」

「うぐっ…」

言い訳さえ許してあげない辺り、さすがである。

「ね、学院長先生?『ご多忙』なところ、わざわざお越し頂いてありがとうございます」

「う、うん…。ごめんねシュニィちゃん…?あ、あの…そ、そんな怒らないで欲しいな~って…。思ったり思わなかったり…」

「私は別に怒っていませんよ。えぇ、ちっとも怒っていませんとも。学院長がとってもおっとりした方だということは、分かっていますからね。何と言っても私もイーニシュフェルトの卒業生ですもの…。だからちっとも怒っていませんよ?」

にっこりと微笑みながら、シュニィはそう言った。

…彼女の「怒っていませんよ」ほど信用ならない言葉も、あんまりないな。

良かったー、俺他人事で。

俺知らないよ。関係ないから。話聞かなかったのはシルナだからね。

「私はちっとも、全く怒っていませんからね…。うふふ。さて、では二時間遅れですが、会議を始めましょうか。二時間遅れですが」

二回言われた。

アトラスもシルナも、冷や汗をかきながらその場に着席した。