「なぁ、なぁルレイア」

「…ん?」

今更ながら、ルレイアという偽名をつけたのは、ちょっと失敗だった気がする。

慣れないせいで、呼ばれても自分のことだと気づくのが遅れる。

幸い、俺の新しい友人C君には何も怪しまれなかった。

「これさ…良くね?」

休み時間、彼は自分で持ってきたらしい雑誌を一ページを指差した。

…心なしか彼のにやにや顔が癪に障る。

「何…?」

覗き込むと、そこには小振りのメロンみたいな胸をした女性が、赤いビキニ姿でポーズを決めている写真が飛び込んでいた。

…うわぁ。

「な?な?良いだろ?」

…C君のにやにや顔は、これのせいか。

少々ドン引きしていると、俺達の横に座ってポッキーを摘まんでいた茶髪の女子生徒Dちゃん。

「…アンタ、最低ね…」

…と、呟いた。

うん。俺もそう思う。

「何でだよ!良いじゃん!最近人気なんだぜ、このグラビアアイドル。今度写真集出すって」

「だからってルレイアにまで見せんじゃないわよ。困ってるじゃない」

「困ってねぇだろ。なぁ?おっぱいは男のロマンだぜ」

「…本ッ当最近…」

Dちゃんの目は、正しく下衆を見る目。

気持ちは分かる。

「何だよ。ルレイアはこの子嫌いか?」

「嫌いって言うか…」

俺は、赤いビキニのグラビアアイドルの隣で、青いビキニを着てポーズを決めるもう一人のグラドルを指差した。

「…こっちの方が好き」

「何!お前そっち派か!」

「…ルレイアも負けないくらい最低ね」

Dちゃんがぼそっ、と呟くのが聞こえた。

最低と言われても。男としては割と普通の心理ではないか。

真剣に交尾の相手を探す途上国の男の子達に比べたら、雑誌に出てるグラビアアイドルに欲情するくらい、可愛いものでは?

「でもこっちは、ちょっと胸ちっちゃいじゃん」

「分かってないなC。大きければ良いってもんじゃないぞ」

「そりゃそうだけどさ~…」

むしろ大き過ぎるよりは、小さい方がマシ。

そういうもんだ。実用性がな?

「じゃあこっちは?こっちの子と、こっちの子だったらどっち派?」

「うーん…どっちも美味しそうだけど…俺は右」

「何!俺は左だ。お前とは血が相容れないようだな!」

などと、話が盛り上がってきたところに。

「…あなた達、何話してるの?」

俺達のグループの一員である、Dちゃんの親友のEちゃんが、購買から戻ってきた。

「何って…なぁ?」

「好きなおっぱい論争」

「…最低…」

Eちゃんも、一瞬で下衆を見る目。

やめて。そんな目で見ないで。

好きでこんな話してるんじゃないから。C君が話を振ってきたから。

「男子が下衆過ぎて嫌になるわ…。ルレイアが転校してから、加速したわよね」

「本当。前はもうちょっとおとなしかったのにね、Cは」

「別に良いだろ?男の話が分かるのは、同じ男であるルレイアだけよ!」

C君はそう言って、俺の肩に手を回した。

その顔は本当に嬉しそうで、すっかり俺を信用してくれているのが分かった。